土蜘蛛よ!
突如現れた、奇形としか思えない奇妙な姿をしたギブラニアにビッグフットは警戒をあらわにしていた。
「それに乗っているのは………さっき泣き叫んで居た太っちょか?なんだその薄気味悪いギブラニアは?ここに配備されていたのは全て踏み潰したハズだ!どっから出てきやがった!」
重い蹴りが飛んで来るが、それを真正面から“4本腕”で受け止める異形の機体。そして平然と投げ返した。
「メグルって言ったな?!コイツの名前は?!」
「つ、ツチグモって呼んでた。東方の国の蜘蛛の化け物にちなんで。でもこれデッカイ蜘蛛の死体を防腐処理して魔力線を繋いでコクピット付けた奴だから……」
「そうか!ツチグモってんだな?よろしくなぁ!」
ツチグモは4本足を巧みに使い恐ろしい速さでイエティに肉薄し、2本の右腕でストレートパンチを繰り出す!
「ダブルストレートパァンチ!!」
「続けて行くぞ!ダブルノックバックキィック!!」
後ろ足2本で踏ん張り前足2本を突き出して前蹴りを叩き込む!イエティはもんどり打って倒れるが、すぐに起き上がり、体勢を整える。
「なるほど………正式に配備された機体ではなく、整備士が趣味で作って居た機体か?……どうりで格納庫のギブラニアを全て潰したのに出て来たんだな?ほとんど巨大昆虫のマリオネットに運転席を付けた様なオモチャでこの俺に勝てると思ってるのか!ナメやがって!イエティ!ブーツパーツパージ!」
イエティの巨大なブーツが割れ、生物じみた足が姿を現す。外れたブーツパーツは細身の腕に装着され、黒光りする手甲となった。
あらわとなったイエティの膝下は何らかの巨大生物の肉体をそのまま移植したモノの様で、白い剛毛がビッシリと生え、浮き出た血管はドクドクと脈動している。生えている爪は鉤爪の様に鋭く、まさに“雪山の巨人”というUМAがそこに現れたかの様な威圧感を放っていた。
「ブーツを履いていたのは、感覚を機体と共有していると“踏み潰した”感触がナマに伝わって来て気色悪いからだが……ホンモノのギブラニアって奴を教えてやるよ小僧!!」
ビュウ……と冷風が吹くとイエティの足元から霜が広がってゆく。そしてその上をスケートする様に滑り、ツチグモに鋭く蹴りが突き刺さる!
「リータ!アレよ!あの氷の力を使う足に私のパパとママは!」
「そういう事か!フェンリルの炎剣にイエティの氷の足、高度なギブラニアは素材となった巨獣の魔法が使えると。ならこのツチグモにも何かあるはずだ!うぉぉぉ!」
「気合だけでどうにかなるって言うの?!」
氷を纏った蹴りによる防戦一方に押し込まれて何度も地面を転がるスパイドン。4本腕に4本足の八本足が有利に思えるが、一本一本の腕は細身であり、イエティの蹴りに対しては防ぐ事で精一杯だった。
「ぬぐぐぐ!メグル!このクモは生前どんな魔法を?!」
「その名の通り!地面をめくったり、砂嵐を起こしたり!土系統の魔法を使ってたわ!奴の霜が降りた地面をボコボコにしたり出来ないの!?」
「今やろうとしてんの!!」
俺達の騒ぎようを聞いてビッグフットは笑う。心底おかしいとでも言うように。
「まるで何も分かっていない素人が! アニメやマンガのヒーローの様に自分に一矢報いれるとでも思っていたのか?そう簡単に出来るならそこらの量産機でもバンバン魔法を使ってるだろうよ!してないって事は“出来ない理由”があんだ!大人しく踏み潰されろぉ!」
大きな力で蹴り飛ばされ、地面にその肢体を横たえるツチグモ。そこに狙いを定めイエティは上空に高く飛び上がる。イエティの右足には巨大な氷の塊がまとわりつき青く燐光を放っていた。
「必殺!アバランチブレイク!!!!」
アバランチ、まるで雪崩の様な雪と氷の塊を纏い遥か高みから地面に横たわるツチグモ目掛け墜ちてくるイエティ。すでにツチグモのスクリーンには雪と氷とイエティしか映って居なかった。
「うごけ!うごけうごけうごけうごけ!うごくんだよぉ!!ハイカ様を見た時に俺はビビッと来たんだ!この人についてけばダウンタウンでくすぶってる俺でも何かいい事がある気がしたんだ!楽しくなる予感が!だから動いてくれよツチグモ!今は「巻き込まれただけです」みたいなテンションのオーカンだってきっとこの閉塞感をぶち抜く為に立ち上がってくれるハズなんだよ!だから親友のこの俺がこんな所で押し潰されるワケには行かないんだ!!動けやクソボケァァァ!!」
俺はもうパニック状態だった。コンソールをボコボコに殴り画面はヒビ割れスイッチは弾け飛び、レバーはへし折る。まさに子供がダダを捏ねて居る姿そのものだった。
「土蜘蛛よ………森で朽ちる筈の気高き魂よ……戦士の呼び掛けに応え、今一度、その姿に宿れ!!ポゼッション!!!」
今の……呪文の詠唱みたいなのは……ハイカ様……?視界の端にハイカ様の姿がチラリと見える。だがその姿は苦しそうだ。今にも倒れそうなぐらいにフラフラしており、頬は赤く、目と鼻から血を流し、それでも何らかの魔法を行使しているのか燐光を放つ魔法陣の上に立ち俺に向かって祈りの言葉を紡いでいた。




