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成金令嬢、計算する。

「長女というで家督争いから外されるのに、結婚相手はお父様が決めるのよ。理不尽だと思わない?」


 放課後、サファイア寮の談話室。ルーシーが紅茶を片手にぼやくと、周囲の女学生たちが一斉に頷いた。


「兄は家業を継いでいるけれど、私には帳簿すら見せてもらえないこともあるわ」

「うちは上4人が女で、長男がまだ4歳なの。彼が成人するまでの繋ぎとして、長女である私だけは学園に通わせてもらっているけれど、妹たちは花嫁修業しかさせられていないのよ」

「この間、兄と使用人が恋愛関係になっていたことが発覚して大問題になってしまったの。使用人は解雇されたのに、誘った側の兄はお咎めなしで……立場の弱い人がいつも損するのよね」


 アナスタシアは、その会話を黙って聞いていた。


(どうして、こんなにも不公平が、当たり前のように存在しているのかしら。)


 彼女の家、ロスベルク伯爵家ではそんな争いはなかった。

 温厚な両親の下で育った個性あふれる5人の子供たちは皆仲が良く、使用人たちも長年仕えてくれており、皆が家族のようだった。


(商才がないお父様には呆れてばかりだったけれど、私は恵まれていたのね。)




 その夜。アナスタシアは、蝋燭の火を頼りに書き上げた計算式を睨んでいた。


(慰謝料で得たお金は、持って3か月。妹と弟たちの学費、使用人たちへの給金、そして領地の修繕と冬支度……。このままじゃ、次の季節を迎える前に厳しい状況になるわね。)


 日が落ちた後は漆黒の闇と化していたアメジスト寮の談話室と異なり、サファイア寮の談話室には、本を読む女学生たちの蠟燭の光がぽつぽつと灯っている。

 その光に、実家の食堂のシャンデリアを思い出し、小さくため息をつく。

 共に食事を囲んだ大切な家族たちの顔を思い出しながら、そっとカーテンを開けた。窓ガラスに蝋燭の灯りが反射して、ガラス越しに見える夜の庭園の景色を幻想的に見せていた。


 ふと、脳裏に祖父の言葉が蘇る。


『空を舞う鷹の目から、地に生きる蟻の生活を見ることはできない。地上の生活を知るためには、降り立って目と耳を傾けなさい。』

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