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成金令嬢、移籍する。

 広大な中庭はセレフィア王国の地理を再現しており、中央には国を東西に分断するライン運河を模したビオトープが流れている。


 このビオトープを隔てて男女の寮が分かれ、石畳の向こうにはプラチナ寮──この学園で最も格式が高く、王太子殿下も暮らす男子寮が、西陽に照らされていた。


(……白馬の王子様なんて、これっぽっちも興味はないわ)


 格式を重んじる学園のため、自由恋愛は禁止。しかし許嫁同士だけは両家の許諾証を学生課に提出することで、この中庭で会うことが許される。

 もっとも実態は、リオネルとナタリーのように隠れて逢引する者ばかりだ。


(年頃の男女が同じ学園で生活していて、何もない方が不自然よね)


 ビオトープの水面に反射する光に群青色の目を細め、一年前の聖夜祭を思い出す。

 学園と街が一体となって行うその祭では、伝統としてプロムナードが催され、女学生は誰もがプラチナ寮の男子と踊ることを夢見る。


 入学して初めてのプロムで、許嫁だったリオネルは浮気相手の腰を抱き、満面の笑みを浮かべていた。

 裏切られた事実よりも、周りが見えないリオネルとナタリーの様子に、むしろアナスタシアが恥じらいを覚えたものである。


 結果としてアナスタシアは、会場の片隅でスパークリングドリンクを口にしながら、女学生たちのドレスの流行を観察して過ごしていたため、会場を騒がせた王太子の顔すら覚えていない。


 ビオトープの水面から顔を上げ、もう一度プラチナ寮に視線を送る。


(慢性的な経済破綻を放置してきた王族に、何を期待しろというのかしら)


 豪奢な寮の壁に彫られた王家の紋章は、逆光の中で暗い紫を讃えていた。

 それはこの国の未来を覆う暗雲のようで、アナスタシアの胸の奥に重いざわめきが沸き起こるのであった。




 ──アナスタシアがサファイア寮に向かう姿を、男子寮の最上階の窓から、一人の青年が見下ろしていた。淡い陽光は、アナスタシアのアッシュブラウンの髪を淡い金色に照らしていた。青年は窓辺に肘をつき、無表情のまま視線だけで彼女を追った。

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