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成金令嬢、噂される。

「――あれが、真実の愛を邪魔した成金令嬢ですって。」

「見て、あの悪魔の冷たい瞳を!」


 リオネルと破談した翌日、アナスタシアは学園中の噂の中心にいた。

 正門をくぐった瞬間、視線が突き刺さる。廊下を歩けば、扇子で口元を隠した令嬢たちがわざとらしく囁く。


「オルフェウス侯爵家への嫌がらせだけじゃなく、迷惑料として多額の金品まで要求したんですって!」

「慰謝料で家の借金を返済したらしいわよ。」


(……成金女、ね。くだらない)


 足を止めず、祖父の教えを思い出す。


『沈黙は最大の防御だ。いつでも、笑顔という鎧を纏って生きろ。』


 群青色の瞳をすっと細め、不敵な笑みを浮かべる。その笑みは、見下す視線を跳ね返す盾のようだった。


 セレフィア王国第一学園は全寮制の王立最高学府で、爵位と性別によって階級が分けられる。

 女子寮は王家の象徴である紫色にちなみ、価値の高い順に《アメジスト》《サファイア》《ガーネット》と名づけられている。


 最上位のアメジスト寮は王族や公爵家、侯爵家の娘が集う社交の殿堂。

 中位のサファイア寮には、才覚や家柄で特待生となった令嬢、事業を展開する商家の娘が集う。

 下位のガーネット寮は、成績や素行に難のある子女が集められていた。


 ロスベルク伯爵家の長女であるアナスタシアは、本来ならサファイア寮のはずだったが、オルフェウス侯爵家との婚約が決まったことでアメジスト寮へ配属された。


 アメジスト寮での礼儀作法や古代史を詰め込む“王妃教育”ばかりで、経済・商法といった実務的な学問はほぼなく、アナスタシアは日々つまらない思いで過ごしていた。


(侯爵家に嫁ぐ予定もなくなった今、王妃教育なんて時間の無駄だわ。)




「アナスタシア・ロスベルク。オルフェウス侯爵家との婚約が破棄されたため、本日をもってサファイア寮へ移籍となる」


 朝礼で主任教師がそう告げた瞬間、場がざわめいた。


(これは……想像以上にうまく運んでいるわ!)


 胸の奥で小躍りし、群青色の瞳が輝く。サファイア寮は商業の実学を学べる、彼女にとって最高の環境だ。


「あぁ、ようやくアメジスト寮が本来の品格を取り戻しますわね」

「心なしか空気も透き通っておりますわ!」


 一軍女学生たちは嫌味を飛ばしたが、アナスタシアは一歩前に出て、にっこりと笑った。


「餞別のお言葉として受け取っておきますわ。──ねぇ、ご存知?サファイアって、アメジストよりも硬度が高い宝石なのよ」

「な、何ですって! 成金令嬢の分際で!」

「あら、深い意味はなくってよ。──それでは皆様、ご機嫌よう」




 荷物は用務員が運んでくれるとのことで、アナスタシアは必要最低限の荷を抱えて中庭を歩く。


(女はお飾りでいい、と言わんばかりの寮の名前なんて大嫌いだわ。でも……)


「宝石として愛られるだけの女より、自分で宝石を買って身に纏える女の方が…いいえ、市場に流通する宝石の値段まで決められる女の方が、素敵だわ。」


 サファイア色の瞳に、希望の炎が灯っていた。

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