第95話 『カイン誤解される』
「ふう! 間に合ってよかった!」
店長は一言だけ残し、颯爽とまたどこかへ消えていった。
カインはまだ目を真っ赤にし、涙と鼻水を垂らしながらバックヤードを出る。だが、店内から強烈な魔王オーラのような気配を感じ取り、足を止めた。
そこでは――
「ちょっとローザさん! サボらないでって言ったでしょ!? さっきまで大変だったんだから!!」
ヒナタさんが、ローザを鋭い眼光で睨んでいた。
「ち、違うんじゃ! これは訳があって……ちょっと言えない事情が――」
ローザは平謝りだが、ヒナタさんの怒気は収まらない。
「だったら、その事情を今ここで説明してもらおうじゃない!」
店内の客たちも、ヒナタさんの放つドス黒いオーラに気づき、静かに全員退店していた。店内はがらんとし、空気がピリピリしている。
カインは意を決して割って入った。
「ヒナタさん、待ってくれ! 焼き芋の手伝いをしてもらっていたら……ちょっとした不測の事態が起こって手間取ったんだ。ローザは悪くない。だから、その辺で許してやってくれ。」
ヒナタさんの表情から怒気がスーッと消えていく。
しかし――
カインの顔を見た瞬間、ヒナタさんは鼻を摘み、何かを察したような目でカインを見た。
「そっ……そっか……。それじゃ仕方ないね……。うん、うん……大体わかったわ。ローザさん、怒ってゴメンね。大変だったんでしょ?」
「う、うむ……理解してもらえて助かったのじゃ。」ローザは頷いた。
ヒナタさんはさらに言う。
「あっ、そういえばさっき一二三先輩がカイン君探してたわよ? 早く行ってあげたほうがいいよ。」
カインは涙目のまま、ヨロヨロと近寄った。
「ちょ、ちょっと待て。なんか誤解してないか? これはだな――」
彼が近づくと、ヒナタさんは慌てて後退した。
「ちょっと! 深くは聞かない! だから近づかないで! 一二三先輩のところに早く行ってきて!!」
「いや絶対に誤解してる!! 我にもプライドが――!」
だがローザがカインの手を引っ張った。
「諦めるのじゃ! あの事は二人だけの秘密じゃ! さあ、さっさと外に出るのじゃ!」
「いや待て誤解が広がる! やめろローザぁぁぁ!!」
カインは必死に抵抗するが、ずるずると外に連れ出されていく。
ヒナタさんは小さく呟いた。
「ローザさん、大変だったのね……カイン君、漏らしちゃったのね……。さすがに聞けないし、言えないわ……。」
「やっぱり誤解してるぅぅぅ!!」
カインの悲鳴が店内に響いた。
店の外に出ると――
「うわっ!? カイン、臭い! 近寄るな!!」
一二三先輩の第一声は容赦なかった。
カインは天を仰いだ。
「……俺の名誉はどこへ……。」




