第94話 『バックヤードでの攻防』
「それで、こいつはどうすればいい? ガスが溜まっておるなら、下手に刺激すれば大惨事ってことだな?」
カインは腕の中のサツマイモを見下ろしながら、ローザに問い詰める。
「うむ、刺激した瞬間――想像を絶する出来事が起こるのじゃ。まずは新聞紙をそっと外し、どんな様子か確かめるのじゃ。」
ローザが慎重に手を伸ばした瞬間――サツマイモが自分で新聞紙をビリッと開いた。
「うおっ!? 手足があるぞコイツ!」
カインが絶叫する。
「さっきから失礼な! 臭いだの大惨事だの、そんな無節操にガスは出さない! だから安心しろ!」
サツマイモが喋った。
「しゃ、喋った……? こ、これは上位種か!?」ローザは目を丸くする。
「意思疎通できるなら、出すなと言えばいいだけじゃないのか?」カインは呆れ顔だ。
「甘いわ! もし出したら――臭いだけじゃない! 目にも染みる! あれと同じなのじゃ! ほら、痴漢撃退スプレーとか熊撃退スプレーとか!」
「範囲は?」
「このバックヤードから駐車場まで余裕でカバーするじゃろうな。」
ローザは深刻な顔で言った。
「……やめておけ、それは店が終わる。」
サツマイモはケロッとした顔(?)で言った。
「だからしないって! ボクはただのサツマイモの妖精。気がついたらここで寝てただけなんだし〜。ところでここはどこ?」
「異世界から来たらしいのじゃ。まあ、そのうち店長が戻ったら元の世界に返すじゃろう。」
ローザが宥めるように言った。
「……ねぇ、これ屋台の芋焼き機に放り込んだら?」カインが恐る恐る尋ねる。
「……爆発してたな、間違いなく。」ローザは即答した。
「ひぃぃぃぃぃ!! 食べる気だったのかぁあああ!?」
サツマイモがブクブク膨らむ。
「いや違う! 普通のサツマイモしか焼かない! お前は焼かない!」
カインは必死で否定した。
サツマイモはしばらく膨らんでいたが、しゅるんと少し縮んだ。
「そっか、ならいいや。」
二人が胸をなで下ろしたその瞬間
「あ〜の〜ふ〜た〜り〜……なかなか戻ってこないわねぇぇぇ……」
ヒナタさんが、レジ前でドス黒いオーラを放ち始めていた。待たされた客のレジ前で、不穏な気配が渦巻いていく。
「ヒィィィ〜〜! なんか怖いの来たぁぁぁ!!」
サツマイモが膨張を再開する。
「まずいのじゃ! このままでは爆発する!! 店長を探すのじゃ!!」
ローザはサツマイモをカインに丸投げし、脱兎のごとく逃げた。
「おい待て! 俺に押しつけるな!!」
カインはサッカーボール大に膨らんだサツマイモを抱え、パニックに陥る。
「ごめんねぇぇ……もうダメかも……」
サツマイモがぷるぷる震える。
「ダメとか言うな! おい、耐えろ、まだだ!!」
カインが必死に呼びかけるが、
――ぷしゅぅぅぅぅぅっっ!!
微妙に鼻を刺す匂いが広がり、カインの目が潤む。
「ちょ、目にくるッ!?」
「も、もうダメぇぇぇぇぇっっ!!」
サツマイモが悲鳴を上げた瞬間――カインの手に衝撃。誰かがカインの手からサツマイモを弾き飛ばしたのだ。
「うわぁああああっ!!」
サツマイモが床に激突。
盛大な破裂音とともに、ガスが周囲へ広がっていく――が、
爆風は、異世界の中だった。
店長がギリギリのタイミングで異世界へのゲートを展開し、その中にサツマイモを放り込んだらしい。
残されたのは涙目のカインと、レジ前で怒りに震えるヒナタさんと、異世界へ消えたサツマイモの声だけだった。
「は〜〜、スッキリしたぁぁぁ……」
扉の向こうから、やけに晴れやかな声が響いた。




