第92話 『炎天下での焼き芋屋台』
昼下がり。
焼き芋屋台の前には、さっきまでの行列が少し落ち着いたものの、芋はまだまだ大量に残っていた。
「……終わらん」
一二三先輩が、ヘラで芋を転がしながらボソッと呟いた。
(トングも火バサミもなくヘラになった)
その横でカインはタオルで額の汗を拭いながら天を仰ぐ。
「なんで残暑が厳しい中、炎天下で焼き芋など作らねばならんのだ……」
炎天下+焼き芋=地獄。
この方程式はすでに彼らの中で確立されつつあった。
そこへ、なぜかいつの間にか戻ってきた店長が軽い口調で言った。
「だって焼き芋って時間かかるし、一度に焼ける数にも限りがあるからね~。そう簡単には芋なくならないよ?」
「そんなことは解っておる!」カインが叫ぶ。
「我も店内での仕事が良い! エアコンこそ人類の叡智! 快適な職場を所望する!」
「そうは言ってもね~、ローザ君は見た目は今ああだけど年齢的に元に戻ったときの反動が怖いし、ヒナタさんはもしこっちの世界で記憶が戻ったらどうなるか怖いから疲れるような事を、させたくないし~。だから快適なほうに行ってもらわないとね!」
「ね! じゃないわ!」カインが屋台の横にある机を叩く。
「なんとかならんのか!?」
だが気がつけば、店長の姿は煙のように消えていた。
「くっ……また消えおった……」カインが唸る。
そんな中、カインが急に顔を上げた。
「むっ!? なんかコンビニから怪しい気配が!」
一二三先輩は無表情で返した。
「おいおい、そんな見え透いた嘘を……」
「本当だ。多少なりとも魔力があるなら店内を意識してみろ。感じたことのない“人ではない”何かの気配がするぞ」
「……確かに、言われてみればそんな気配が!」
本当は何も分かっていない一二三先輩が、とりあえず話を合わせる。
「手遅れになる前に様子を見てくる! 後はまかせた!」
言うが早いか、カインは焼き芋屋台を一二三先輩に丸投げし、颯爽とコンビニの中へと走っていった。
「いや、丸投げかい……」
一二三先輩は天を仰ぎ、無人の行列スペースを見渡す。
「まあ、当分焼けないし、客も整理券配ったおかげで今は誰もいないし……ノンビリ屋台見ておくか」
彼はそう言いながら、芋を転がす返す作業を再開した。




