第89話 『男爵と言えば』
いつもなら扉からヒョッコリ顔を出して「お疲れ〜」と呼びに来る店長が、今日は出てこない。
「そろそろ帰るか〜」
カインの一言で、異世界組はコンビニへ戻ることにした。
ローザは首輪の魔道具を装着して若返り、一二三先輩は聖なる菜箸を握りしめながらブツブツ言っていた。
「結局この菜箸、何の役にも立たんかったな……」
扉をくぐると、バックヤードにも店長の姿はない。仕方なくカインがレジのヒナタさんに尋ねる。
「店長は?」
「あぁ、なんか“いいこと思いついた!”って言って出てったよ。で、カイン君が来たらバックヤードで待っとけって言ってた」
「必要なの、カインだけか……それじゃお先に――」
とっとと逃げ出そうとする一二三先輩の肩を、カインがガシッと掴む。
「菜箸のこと聞きたかったんですよね? 待ちましょう、先輩」
カインの笑顔が妙に怖い。
「な、なんか嫌な予感しかしないのう……」
ローザもこそこそ帰ろうとしたが、
「この前助けましたよね? 逃げないでください」
カインがバシッと手を伸ばす。
「わ、ワシ怖いんじゃけど!」
そんなやりとりをしていると、店長が裏口から帰ってきた。
「おっ、やっぱりね! 今回はサツマイモもらえたでしょ? 準備しといたからこっち見に来て。あ、一二三君もローザ君もいるの? なんてグッドタイミング!」
店長に呼ばれて、カインたちは渋々外へ。
そこには――移動式の焼き芋屋台が鎮座していた。
「ちょっと借りてきたんだ〜。古いけど、洗えばピカピカになるし。サツマイモはまず天日干しからだよね? さあ、みんなで準備しよっか!」
「待て。我は帰ろうとしておるんだが? せめて明日にしてくれ」
「明日になると、カイン君一人で準備することになるけど? それでもいいなら明日でも」
「ま、待て待て待て! なんで我が焼き芋担当なんだ!?」
「そりゃあ、サツマイモと言えば芋! 芋と言えば男爵! 男爵と言えば貴族! 貴族と言えばカイン君! ほら、何もおかしくないでしょ?」
「どこがだ! 昔の流行の何かみたいなノリで言うな!」
店長は腕を組み、少し考え込んだ。
「むむむ……これはもう断罪してもらうしか――藤咲さんか?」
「いやいやいや、もうその手はキカヌ!」
カインが即座に拒否した。
「えっ、何か呼ばれた気がして……皆さん集まって何してるんですか?」
タイミングよく藤咲さんが登場。
店長が口を開きかける前に、カインが手を叩いた。
「さてと! 焼き芋の準備でもするかな! 一二三先輩もローザも手伝うぞ!」
「なんで俺まで……。っていうか“先輩”とか言いながらコキ使う気だろ」
「なんか面白そうじゃのう! ワシは一二三と屋台担当じゃ!」
「はい! 師匠、頑張りましょう!」
一二三先輩が妙にノリノリで答えた。




