第85話 『イナゴっぽい何かに襲われる村』
数日後――
ある夜勤。
カウンターの奥で仕事をするふりをしてサボっていたカインの耳に、唐突な店長の声が飛び込んできた。
「農村部をね……イナゴっぽい何かが襲ってるんだよね~。」
「へぇ〜そうなんですか。大変ですね〜。」
やる気ゼロの返事をするカイン。
そんな彼に、店長はさらっと告げる。
「でさ、今度……扉の中にヒナタさんとカイン君をうっかり2人だけで入れちゃったりしたらゴメンね。」
「おい! “うっかり”で異世界に飛ばすな! 藤咲さんが普通になったと思ったら次はヒナタさんか!? 我は虫は嫌いだ! しかも今日は一二三先輩もいないし!」
カインがカウンターを叩いて叫ぶ。
しかし店長はまったく動じない。
「大丈夫大丈夫! 今日はあっちにローザ君を待機させてるから。2人で挑めば平気平気。それに何といっても――これがあるからね!」
そう言って店長がカインに差し出したのは、禍々しいオーラを纏った一本の菜箸。
「なんだこの呪われし箸は!」
カインは思わず叫んだ。
「この前の素麺イベントの時にさ、これ踏んで転けたんだよ。そしたら何故か“聖なるオーラ”を纏い出したんだよね。きっと運命だよ。」
「運命のわけあるかぁ!」
そうこうするうちに、カインは店長にヒゲメガネを無理やり装着させられた。
武器は“聖なる菜箸”一膳のみ。唐揚げ串すら持たされず、気づけば異世界への扉の前に立たされていた。
「さあ、いってらっしゃい!」
「やめろぉぉぉぉ!」
カインの絶叫と共に、扉は無情にも閉じられた。




