第79話 『素麺イベント当日』
朝8時。かきいれ時のコンビニに、無情にも「臨時休業」の札が下がっていた。
事前に告知はしていたが――まさか本当に閉めるとは。これが店長のやり口だった。
「はい、みんな集まってー」
開口一番、店長はやる気満々で声を張り上げる。
「本日だけ特別に手伝いに来てくれている藤咲さんだ。お客さんとして見かけたことある人も多いと思う」
紹介され、藤咲フィアナは軽く会釈する。
そして店長は、もう一人の少女の肩に手を置いた。
「で、こっちはローザ君だ。留学生で、一二三君と同じ大学に通ってるらしい」
「えっ?! ちょ、ちょっと待ってください店長! そんな設定、聞いてないんですけど!」
思わず声を上げる一二三先輩。
横でカインが肩を叩きながら小声で言った。
「……諦めろ。店長の設定は絶対だ」
一二三先輩は遠い目をし、無言で頷いた。
店長が場を仕切る。
「今日は素麺イベントだ。前回は1時間で準備したが……正直、時間が足りなかった。だから3時間前から店を閉めた。みんな、大変だろうが頑張ってくれ」
さらっと言うが、店内の商品を一度全部外に出すこの作業、過酷さで言えば軽い地獄だ。
そんな中、ローザはというと――。
彼女はヒナタの方をチラチラ見ていた。
ヒナタ本人はまだ気づいていないが、カインと店長はその様子にわずかに警戒する。
「……あのローザ、なんか企んでないか?」
「大丈夫大丈夫、準備が終わるまで放っておけ」
店長はカインにコッソリ耳打ちするが、その目は全然大丈夫そうに見えなかった。
やがてローザは自然な流れを装ってヒナタに近づいた。
「のう、商品はどこへ運べばいいのじゃ? 教えてほしいのだ」
「あ、はい。ええと……」
普通の会話――のはずだった。だがその時、ローザの目に映った。
普段は消えているはずの、異世界への扉が。
「お主、あれは何じゃ?」
「え? あんなの……あったっけ?」
ヒナタが不思議そうに首をかしげる。
「ちょっと見に行かぬか?」
ローザはわざとらしいほど自然に、ヒナタの手を取った。
誘う先はもちろん――異世界への扉だった。




