第78話 『デビューの日取りが決まる』
それから一週間。ローザの常識修行は毎日数時間ずつ続いた。
買い物、電車の乗り方、スマホの使い方、ATMの操作、カフェでのマナーまで。藤咲フィアナと一二三先輩、そしてカインは総出で教え込んだ。
そして――ついに、次の土曜日にヒナタさんとの顔合わせが決まった。
「本当はな、もっと長く常識を勉強させたかったんだが……」カインが呟く。
「なにか事情があるのですか?」藤咲フィアナが首を傾げると、カインはため息をつきながら答えた。
「店長がさ、明日の土曜日に『流し素麺イベント』をやるって言い出したんだよ」
「流し素麺イベント?」ローザは目を輝かせた。「なんじゃそれは! なんか楽しそうな予感がするのう!」
「いや、ちょっと待てローザ。お前はサービスを受ける側じゃなくて、提供する側になるんだぞ? 我の経験上、ろくなことにならんと思うがな」カインは真顔で言う。
「ろくなことに……とはなんじゃ?」ローザは首を傾げる。
カインは一二三先輩の方を向いた。
「一二三先輩! 流し素麺イベントって今までやったことあるのか?」
一二三先輩は眼鏡をクイっと上げながら答えた。
「相変わらずの話し方だな……まあいい。1回だけあるけどな。正直、面倒だった。少なくともコンビニがやるレベルじゃなかった」
「それは気になりますわね」藤咲フィアナが興味津々で言う。
一二三先輩は腕を組んで説明を始めた。
「確か以前は朝11時から14時までの予定だったが……始まる前の準備が地獄だ。まず、店の中の商品を全部バックヤードに移動しろって店長が言い出す。で、棚を全部外に出して仮設テントに並べる。それが終わったら、店内にパイプ机とパイプ椅子を設置して、業務用っぽい流し素麺機を複数台置くんだ。それを1時間でやれって言うんだからな」
「うげっ、それ無茶じゃないか? 1時間でできるのか?」カインが顔をしかめる。
「前回はギリギリできたが……二度とやりたくないとも思ったな」一二三先輩は遠い目をした。「で、そのドタバタの最中にコッソリとローザさんを紛れ込ませる予定らしい」
「なるほど! つまりワシのデビュー戦というわけじゃな!」ローザは嬉しそうに拳を握る。
「私は……何かお手伝いするんでしょうか?」藤咲フィアナが尋ねる。「そういえば店長さんにイベント手伝いに来てほしいって言われてましたわ」
「手伝いどころか、たぶん店長の無茶振りに巻き込まれる未来しか見えないな」カインはため息をついた。




