第75話 『これからに向けて』
ほどなくして、四人はファミレスのテーブル席に腰を下ろした。
ローザは落ち着きなく辺りを見回し、店内の明るい照明や壁に並ぶメニュー写真に目を輝かせている。
「それで……この“ハンバーガー”とやらはあるのかえ? それから“刺身”という生魚もあるのかえ? あれはDVDとかいう箱で見たのじゃが、いったい何が出てくるのじゃ?」
目を輝かせながらローザが質問を連発する。
隣のカインが苦笑しつつ、テーブル横に置かれたタブレットを手に取る。
「この機械で好きなものを選んで押せば注文できるんだ。すぐに店員さんが持ってきてくれる」
「おぉ〜! DVDでっきとやらも凄かったが、こちらもなかなか。どういった原理で動いておるんじゃ? 絵は“写真”とやらなのは解っとるが、謎が多い世界じゃのう……」
ローザは画面をまじまじと覗き込み、指先で恐る恐る触ってみる。
「取り敢えず、ワシは生魚は元々食べておったから……この“ハンバーガー”というものを頼んでみるかの」
そう言ってローザは当然のようにカインに要求した。
「おうおう、注文くらい自分でやってみろよ……。まぁいい、俺がやっとく」
他の面々はデザートやドリンクバーを選び、それぞれ注文を終える。
そこで一二三先輩が、咳払いをひとつして口を開いた。
「取り敢えず、今の状況を整理しようか。……ヒナタさんは元・魔王。下手に記憶が戻れば暴走し、下手をすれば世界を破滅させる可能性がある。これは、こちらの世界も、異世界も、両方にとって危険だ」
「ま、まさか……藤咲さん、ヒナタさんが魔王だなんて……」
フィアナは目を丸くしながら首を振る。
「いえ、信じられませんわ。あんなに普通に見えるのに」
「いやいや、あの時々みせる食べっぷり……あれは確かに魔王級だぞ」
カインが真顔で頷いた。
「店長が“廃棄になるから食べていいぞ”って言った惣菜、どこに消えたのか分からないくらい、一瞬で平らげてたのを俺、何度も見たことあるしな」
「……あ、あれは……!」
ヒナタは顔を赤くし、目を逸らす。
「ふむふむ。どうやって記憶を戻すかが問題じゃな。……そして鍵を握っておるのはワシ、ということじゃな!」
ローザは胸を張って高らかに宣言する。
「任せておくのじゃ! この若返った姿、能力も全盛期以上に戻っておる。わしがいてこその作戦じゃ!」
「自分で言うか……」
カインが呆れ気味に突っ込むが、どこか頼もしげでもある。
「取り敢えず、ここを出たらあちこち歩いてみるか。街の雰囲気を掴めば、何か見えてくるものもあるだろう」
カインがまとめ、テーブルにひとまずの方向性が落ち着く。
ローザは届いたばかりのハンバーガーを両手で持ち上げ、じっと観察していた。
「ほぅ……肉と野菜を丸いパンで挟むとは……妙な発想じゃが、これがまた良い香りじゃのぅ」
ひと口かぶりついた瞬間、目を見開く。
「おおっ……! ……これは……悪くない! いや、美味いのじゃ!」
その様子を見て、フィアナもヒナタも思わず笑みを浮かべた。
緊張の中にも、わずかながら和やかな空気が流れ始めるのだった。




