第73話 『ローザ現る』
その日、コンビニの裏口近く。
夏の日差しが真上から照りつけ、アスファルトの照り返しが肌にじりじりと焼き付く。
一二三先輩と藤咲フィアナは、事前の打ち合わせ通り、裏口の脇の小さな木陰で待機していた。
先輩は普段通り涼しい顔をしていたが、内心は落ち着かない。あの“師匠”――異世界で老婆として出会ったローザが、店長から渡されたネックレスで「若返る」ことを知っているからだ。
実際にそれを見るのは初めて。果たしてどんな姿で現れるのか――胸の奥がざわついていた。
「……カイン、そろそろ戻る頃かしら」
フィアナが呟く。視線は裏口の向こう――つまり異世界と繋がるダンジョン方面へ。
彼女もまた、不安と期待が入り混じった顔をしている。
やがて、裏口の影が揺れた。
そこから姿を現したのは――カイン。そして、その隣に並ぶ人物を見た瞬間、一二三先輩は言葉を失った。
ローザだった。
だが、あの皺だらけの背の曲がった老婆ではない。
艶やかな黒髪を肩口で揺らし、背筋は真っすぐに伸び、透き通るような肌に若さが溢れている。年の頃は、フィアナとそう変わらない――十代後半ほどの少女の姿。
胸元には、発光を終えたばかりのネックレスが煌めいていた。
しかし、口を開けば――
「おおっ……! ひふみや、わらわは来たぞ! 見よ、この肌つや! 指の節々が痛うないのじゃ! はははは!」
声と口調は、まごうことなき老婆そのもの。
一二三先輩は額に手を当て、ため息をひとつ。
「美少女なんだけど……やっぱり中身はそのままか」
隣のフィアナは目を丸くしている。
「こ、これが……ローザさん?」
「そうじゃとも! フィアナ殿! わらわは蘇ったのじゃ! 若さと共にのう!」
ローザはくるりとその場で回り、スカートの裾を軽やかに翻す。
前回は、小汚い服装だったが今回は服装も普通の服や小物を店長が用意していたみたいで、見た感じが全然違った。
あの適当な店長が、似合う服装を選べたのが謎である。
「さっきから思っていたが、何かテンションが変ではないか?」
「……原因はわかってる。店長が渡したDVDだな」
一二三先輩は小声で呟く。案の定、ローザは息を弾ませながら続けた。
「で、で、で! 次は温泉か? それとも空を飛ぶ鉄の鳥に乗せてくれるのか? わらわ、心しておるぞ!」
「いや……まずはファミレスに行く予定だから」
「ファ、ファミレス……? 旅籠の一種かの!」
すっかり旅行気分で盛り上がるローザを前に、先輩もフィアナも頭を抱えるしかなかった。
こうして、“若返ったローザ”は、ファミレス行きの道中から早くも暴走気味。
その先が思いやられるのは、言うまでもない。




