第70話 『元魔王の記憶の戻し方』
「ちょっと待つのじゃ! あの魔王様の気配を発しておる娘に、もう一度会わせるのじゃ!」
老婆はソファーから立ち上がり、異世界の扉に向かって手を伸ばす。しかし、何度試しても、彼女には扉を掴めなかった。
「はいはい、お構いなしでいいから」
店長は老婆の必死の様子を無視し、さっさと扉を潜り抜ける。
「むぅ……」
渋々ながら、カインも店長に手招きされて後に続く。
「……よし、俺も!」
呼ばれていないのに、一二三先輩が勝手に続き、藤咲さんも不安げにその後を追う。
異世界の河原に戻ると、店長はバーベキュー用の椅子にどっかりと腰を下ろした。
「はぁ〜……みんな、ついてきちゃったか。まあいいや」
老婆は未練がましく扉を振り返りながらも、店長に促されて渋々椅子に腰を下ろす。
「何から話していいかわからないけど……単刀直入に言うよ」
店長は肩を竦めながら、さらりと爆弾を落とした。
「ヒナタさんは元・魔王だから」
「やはりっ! あのお方は魔王様! ワシの見立てに狂いはなかった! もう一度、もう一度お会いせねば……!」
老婆はボロボロと涙を流しながら叫ぶ。
「ふむ……ここは我の出番か! いや……しかし今の彼女は大事なコンビニメンバー……記憶も無い以上、争う訳にもいかぬか……」
カインが腕を組み、芝居がかった調子で唸る。
「カイン君! 最近ちょっと記憶が戻ったくらいのただの貴族が、魔王に勝てる訳ないでしょ! 絶対に余計な事しないでよ?」
店長がバシッと釘を刺す。
「ぐ、ぬぬぬ……!」
カインは分かりやすく悔しがった。
「ま、まさか……ヒナタさんが……元・魔王だなんて……! あんなに良い子なのに……!」
藤咲さんは顔を真っ赤にし、両手をぶんぶん振ってアタフタする。
「まあ、今はそこそこ働いてるし、みんなとも仲良くやってるだろ。少しくらい記憶が戻っても暴走はしない……はず。けど、元魔王だからな。もしもの時に止める手段がない。だから慎重になってるわけ」
店長は気の抜けた調子で説明した。
老婆はうつむいて何かをブツブツ呟き考え込んでいたが、店長がすぐさまピシャリと釘を刺す。
「こら、そこ! 勝手な行動はダメ! せっかく“チラ見せ”してあげたんだから、大人しくしてよね」
「……では何故? 師匠を、わざわざヒナタさんに会わせたんですか?」
一二三先輩が疑問をぶつける。
「おっ、いい質問!」
店長はニヤリと笑った。
「本当はまだ早いと思ってたんだけどさ。協力者が増えれば、穏便に記憶を戻せるかもって思ったんだ。両方の反応を確認したかったんだよ」
「なるほど……」
「確かに、カイン様や一二三さんが普通に扉を出入りするようになったのも最近の事みたいですし……」
藤咲さんが相槌を打つ。
「そうそう。もし何かの拍子にヒナタさんが異世界に来ちゃって、その拍子に記憶が暴走したら……目も当てられないだろ?」
店長は両手を広げてみせる。
「ふむ……感心感心。魔王様の記憶を戻そうとするとは良い心がけじゃな。で、暴走とはどんな感じになるんじゃ?」
老婆が興味津々で問う。
「一番最悪なのは……手当たり次第、力尽きるまで人族・魔族・亜人、関係なく攻撃して、破壊の限りを尽くすことだね」
「さ、流石にそれは困るのお……」
老婆は顔を青くした。
「魔王軍を率いていた時みたいにはならんのか?」
「うん、さすがにもう戦争は起きないと思う。けど……コンビニで過ごした記憶を残したままなら、魔王時代の記憶が戻っても暴走せず平和的に戻ると見込んでる」
店長は説明を続けた。
「……では、その“平和的に戻す方法”はあるんですか?」
藤咲さんが真剣に問いかける。
「うん。コンビニにいる時に記憶を戻す。それが一番安全。カイン君みたいにね」
店長はカインを指さす。
「なにっ!? 我を実験台にしたのか!」
カインが目をむく。
「何も気にしないで異世界に来ちゃうと、この前の藤咲さんみたいに暴走しちゃうからそれだけは絶対に阻止しないとね」
「藤咲さんが暴走しかけたのも、それが原因だったんですか!?」
一二三先輩も声を上げる。
「まあまあ落ち着いて。秘策はあるから! 全部のピースは揃ったんだよ」
店長はヘラヘラ笑いながらも、自信満々に言い放った。




