第69話 『魔王?』
「う、う、う……ここはどこじゃ? 確か拾った小僧の魔法訓練に付き合っておったら倒れて……」
老婆が目を覚ました場所は、コンビニ休憩室のソファーだった。
「し、ししょーーーっ!」
一二三先輩が叫びながら、むぎゅっと老婆に抱きつく。
「よかった……目を覚まされたんですね」
藤咲さんは胸をなで下ろし、安堵の表情を浮かべた。
「やっと起きたか。で、お前は何がしたいんだ? 魔物をけしかけたり、魔法を教えたり、挙げ句にぶっ倒れるとか……おかげで俺は要らぬ肉体労働までさせられたんだぞ」
カインが腕を組み、いかにも偉そうに吐き捨てる。
老婆ははっとしたように目を見開いた。――そして思い出す。
あの、聖なるビンタを。
「わ、ワシを……聖なる力でビンタした女じゃぁぁぁ! ひ、ひぃぃっ!」
老婆は藤咲さんを見て怯え、ソファーの背に張りつく。
「し、師匠、大丈夫です! しっかりしてください! 師匠は……おれが守ります!」
一二三先輩は必死に老婆の肩を抱き、まるで子どものように叫ぶ。
「ご、ごめんなさい……」
藤咲さんは小さく頭を下げる。だが心の中では、凶暴な人間扱いされたことにしゅんと肩を落としていた。
――その時。
「ちょっと静かにして下さい。店内まで声が響いてます」
休憩室のドアを開け、ひなたさんが顔を覗かせた。ピシャリと言い放つと、そのまま去っていく。
「……す、すみません」
カインも一二三先輩も藤咲さんも、同時に頭を下げた。
老婆は目を丸くし、去っていったひなたの背中を見つめながら――ぽつりと呟いた。
「……ま、魔王様……」
「「「魔王様?」」」
三人は一斉に老婆を見やる。
「ヒナタさんは優しくて明るい、大切な友達ですよ。そんな、怖い人じゃありません」
藤咲さんは真剣に言った。
「まあ、確かに怒ったら怖い時はあるけどな」
「ははは」
カインと一二三先輩は苦笑し合う。
「いや、間違いない! 見た目こそ違えど、あの気配は……魔王様に間違いない! もう一度……もう一度魔王様にお目通しを! ご照覧をぉぉ!」
老婆はソファーの上でがばがばと身をよじりながら叫ぶ。
そんな騒ぎの最中、休憩室のドアが再び開いた。
「――はいはい。村人たちには話をつけておいたから。そろそろ帰ろっか」
いつの間にか現れた店長が、老婆の喚きを一切気に留めることなく、異世界への扉の向こうへと連れて行った。




