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第68話 『老婆、コンビニに行く』

老婆はうつむき、掠れた声で話し出した。

「……魔王様が倒され……老いぼれてゆくこの身……忘れ去られていく我の存在……何もかも、嫌になっての……。

 じゃが……最後に、我らの存在を残したく……力を蓄えておった……。

 田舎の村で暴れておれば、仲間たちの耳にも入ろうかと思って……」

その言葉を聞いた瞬間、藤咲フィアナの手が振り抜かれた。

パンッ!

「そんなことをしても意味はありません!」

彼女の声は厳しく、そして震えていた。

「今は……人と魔族が手を取り合って復興へと進んでいる時代です。

 そんな悲しいことを言うのは……やめてください!」

老婆は目を見開き、そのまま意識を失って倒れ込んだ。

「し、師匠ーー!! なんてことをするんですか藤咲さん!! 師匠ぉぉぉ!!」

一二三先輩が嘆きの声を上げる。

「わ、わたし……そんなつもりじゃ……!」

藤咲はアワアワと手を振り、動揺している。

店長が溜息をつきながら口を挟む。

「……取りあえず、こんなとこに放っておくのはマズいね。元魔王側の人を村人に見つかったら大騒ぎになるだろうし。

 カイン君、その老婆を背負って。休憩室に連れて帰ろう。コンビニから外に出さなきゃ、なんとかなるでしょ」

カインは即座に反発する。

「なぜ我がそんな真似をせねばならん! 師匠などと慕っている一二三先輩がおぶればよかろう!」

だが店長は涼しい顔で返す。

「万が一途中で目を覚まして暴れたら対応できるのは、ヒゲメガネ装備のカイン君だけだからね。よろしく」

「ぐぬぬ……!」

カインは露骨に不満げな顔をしつつも、しぶしぶ老婆を背負い上げた。

そのまま異世界の扉を抜け、コンビニへ戻る。

途中で店長は足を止め、

「俺は村の人たちの様子を見てくる。先に戻ってて」

と言い残して消えた。

休憩室に老婆を寝かせてしばらくすると、ヒナタさんが入ってきた。

「……えっ? みんな? どうしたのそのオバアチャン?」

「一二三先輩が拾ってきた」

カインが即答する。

「ちがう違う! 藤咲さんがビンタしたら気絶したんだよ!」

一二三先輩が慌てて訂正する。

「ま、間違ってはいないけど……それにはちょっと訳が……!」

藤咲は目を泳がせ、言い訳にならない言葉を並べる。

ヒナタさんは困ったように首をかしげ、ため息をついた。

「うーん……みんなの言ってること、全然わかんないな〜。レジほったらかしだし、あとで教えてね!」

と、何事もなかったように店内へ戻っていった。

残された三人は顔を見合わせる。

「……見られたけど、大丈夫なのかこれは?」

カインが小声でつぶやく。

「師匠……しっかりしてください……」

一二三先輩は老婆の手を取り、切なげに呼びかける。

藤咲フィアナは肩を落とし、困り果てた顔で二人を見ていた。


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