第68話 『老婆、コンビニに行く』
老婆はうつむき、掠れた声で話し出した。
「……魔王様が倒され……老いぼれてゆくこの身……忘れ去られていく我の存在……何もかも、嫌になっての……。
じゃが……最後に、我らの存在を残したく……力を蓄えておった……。
田舎の村で暴れておれば、仲間たちの耳にも入ろうかと思って……」
その言葉を聞いた瞬間、藤咲フィアナの手が振り抜かれた。
パンッ!
「そんなことをしても意味はありません!」
彼女の声は厳しく、そして震えていた。
「今は……人と魔族が手を取り合って復興へと進んでいる時代です。
そんな悲しいことを言うのは……やめてください!」
老婆は目を見開き、そのまま意識を失って倒れ込んだ。
「し、師匠ーー!! なんてことをするんですか藤咲さん!! 師匠ぉぉぉ!!」
一二三先輩が嘆きの声を上げる。
「わ、わたし……そんなつもりじゃ……!」
藤咲はアワアワと手を振り、動揺している。
店長が溜息をつきながら口を挟む。
「……取りあえず、こんなとこに放っておくのはマズいね。元魔王側の人を村人に見つかったら大騒ぎになるだろうし。
カイン君、その老婆を背負って。休憩室に連れて帰ろう。コンビニから外に出さなきゃ、なんとかなるでしょ」
カインは即座に反発する。
「なぜ我がそんな真似をせねばならん! 師匠などと慕っている一二三先輩がおぶればよかろう!」
だが店長は涼しい顔で返す。
「万が一途中で目を覚まして暴れたら対応できるのは、ヒゲメガネ装備のカイン君だけだからね。よろしく」
「ぐぬぬ……!」
カインは露骨に不満げな顔をしつつも、しぶしぶ老婆を背負い上げた。
そのまま異世界の扉を抜け、コンビニへ戻る。
途中で店長は足を止め、
「俺は村の人たちの様子を見てくる。先に戻ってて」
と言い残して消えた。
◆
休憩室に老婆を寝かせてしばらくすると、ヒナタさんが入ってきた。
「……えっ? みんな? どうしたのそのオバアチャン?」
「一二三先輩が拾ってきた」
カインが即答する。
「ちがう違う! 藤咲さんがビンタしたら気絶したんだよ!」
一二三先輩が慌てて訂正する。
「ま、間違ってはいないけど……それにはちょっと訳が……!」
藤咲は目を泳がせ、言い訳にならない言葉を並べる。
ヒナタさんは困ったように首をかしげ、ため息をついた。
「うーん……みんなの言ってること、全然わかんないな〜。レジほったらかしだし、あとで教えてね!」
と、何事もなかったように店内へ戻っていった。
残された三人は顔を見合わせる。
「……見られたけど、大丈夫なのかこれは?」
カインが小声でつぶやく。
「師匠……しっかりしてください……」
一二三先輩は老婆の手を取り、切なげに呼びかける。
藤咲フィアナは肩を落とし、困り果てた顔で二人を見ていた。




