第67話 『項垂れる老婆』
老婆が倒れ込み、荒い息をつきながら呻く。
一二三先輩が膝をつき、必死に声をかけた。
「師匠! しっかりしてください! なぜこんなに倒れるまで力を……助かる方法はありませんか!?」
老婆は薄く目を開け、掠れた声で答える。
「……年には勝てんのじゃ……。それに、さきほど……蟻のような魔物どもを従えて、そなたらを襲った時に……魔力を使いすぎた……もう限界が近いのじゃ……」
一二三先輩の顔が苦渋に歪む。
「なぜ……なぜそんな、人を襲うような真似を……っ! 事情があったのでしょうが……!」
店長は呆れ顔で口を挟んだ。
「いや、事情がどうあれ、襲ったら普通にダメでしょ」
一二三先輩は振り返り、珍しく声を荒げる。
「黙らっしゃい店長! 師匠にはきっと深い深い理由があるはずだ! それも聞かずに何を言うんだ!」
横で腕を組んで聞いていたカインが、芝居がかった調子で笑う。
「フッ……ならば我がその理由というものを聞いてやろうではないか! ハーハッハッハ!」
一二三先輩はすかさず食ってかかる。
「カイン君! その話し方は師匠に対して失礼ではないか!?」
藤咲フィアナが冷静にツッコミを入れる。
「……あの、いつから師弟関係になられたんですか?」
一二三先輩は胸を張って即答した。
「ついさっきです! そう、三十分か一時間ほど前に!」
店長とカインは、顔を見合わせながらコソコソと囁く。
「……なぁ、あの二人って知り合ったばかりじゃなかったか?」
「うむ。まさか……年上好きなのかもしれんぞ、一二三は」
一二三先輩は振り返り、耳まで赤くして怒鳴る。
「コソコソ話してるつもりだろうけど、全部聞こえてるからな! 好きとか嫌いとかの話じゃない! 師匠は師匠なんだ!」
三人が言い合いを続けている間に、藤咲フィアナが老婆に膝をついた。彼女の手から淡い光が溢れ、癒しの魔法が老婆の体を包む。
老婆の呼吸が安らぎ、顔色に血色が戻る。
「……助かった……のか……?」
しかし老婆の瞳はすぐに曇り、力なく呟いた。
「蟻蜘蛛たちの気配が……消えておる……。わしの大事な子らが……」
項垂れる老婆。その肩は小刻みに震えていた。
フィアナはそっと彼女の手を取り、まっすぐに尋ねる。
「……どうして、そんなことをしたんですか?」
老婆は沈黙し、唇を噛んだまま答えを探すように震えていた。




