第66話 『一二三先輩がいない』
少し時間を遡る。
コンビニに戻ったカイン、店長、藤咲フィアナは、ふと一二三先輩の姿がないことに気づいた。
普段は飄々としている店長が、珍しく狼狽する。
「おかしい……一二三の姿がない……!」
その様子を見て、カインはきっぱりと頷いた。
「直ぐに助けに行かなければ! 店長! 例の串を所望する!」
そう言うと、カインはロッカーからヒゲメガネを取り出し、ゆっくりと装着した。
フィアナは震える手を胸に当て、悔恨の声を漏らす。
「……直ぐに行きましょう。もう遅れは取りません。私が……あの時焦らず結界を張っていれば、こんなことには……!」
躊躇う時間はなかった。
三人は再び、コンビニ裏に開いた異世界への扉を潜る。
扉を抜けた瞬間、濃密な魔力の匂いと土埃が鼻を突いた。
「唐揚げ串よ、奴らを薙ぎ払え!」
カインが命じると、店長の差し出した唐揚げ串が輝きを放ち、宙を舞って魔物を撃ち抜いた。
フィアナはその隙を逃さず、聖なる光で周囲を包み、敵の動きを鈍らせながら結界を張る。
目の前に広がるのは――荒らされたバーベキューセット。
辺り一面には、蟻型の魔物の死骸が灰となって崩れていく。
だが、それらはただの蟻ではなかった。蜘蛛の脚を持つ「蟻蜘蛛」の群れ。
不意打ちを狙ったはずの彼らは、気づかれる間もなく消滅していった。
だが、そこに老婆と一二三先輩の姿はなかった。
「一二三――! 一二三!」
三人は声を枯らして探すが、返事はない。
その時、店長がふと気づく。
崩れた木々の隙間に、人ひとり通れるほどの獣道が、奥へと続いている。
「……道がある!」
店長の声に、カインは即座に走り出した。
その背を追うように、店長とフィアナも足を進める。
しばらく進むと、鬱蒼とした森の中に古びた小屋が現れた。
同時に――
「師匠っ! しっかりして下さい!」
小屋の中から、一二三先輩の悲痛な叫びが響いてきた。
カインは迷わず扉を蹴り開ける。
そこには――
必死に老婆を抱きかかえる一二三先輩の姿があった。
老婆は血の気を失い、今にも消え入りそうに横たわっていた。




