第64話 『魔法の師匠』
時は少しだけ遡る。
一二三先輩は、キノコの毒が抜けた後、腹いっぱいで地べたに転がりながら、ふと過去に誰かから聞いた話を思い出していた。
――「異世界の食べ物を食べれば、魔力が回復する」
ただし但し書きがあった。
――「器がないと、魔力が含まれている物を食べても意味がない」
普通なら「そうか、残念」で終わる話だが、満腹で気が大きくなっている今の一二三先輩は違った。
「……いや待てよ? 毒キノコって、限界突破するほど魔力が詰まってたんだよな。
ってことは……今の俺、もしかして……器が満たされてる!?
魔法使えるんじゃね!? やばっ、俺、異世界主人公フラグじゃん!」
腹をさすりながら、ひとりでブツブツ。
近くでモンスターが騒ごうが、村人が悲鳴を上げようが、耳に入らない。
完全に自分の世界に没頭していた。
「ファイアボール!」
「燃え盛る炎よ!」
「えっと……!」
意味不明な呪文を叫びながら手を振り回していると、いつの間にか周囲から人の気配が消え、残っていたのは一人の老婆だけだった。
「……お主、何をしとるんじゃ?」
しゃがれた声に振り返ると、そこにはどう見ても怪しさ満点の老婆。
黒いフードをかぶり、杖をつき、目はぎょろぎょろ。
普通の人なら「やべぇ奴だ!」と距離を取るところだが――。
一二三先輩の脳内では違った。
(……魔法が使えそうな人、キタコレ!!)
「師匠!! 今まさに魔法を習得しようと試行錯誤してたんです!
どうかご教授ください!!」
涙目で土下座。
老婆は「師匠」と呼ばれた瞬間、目尻をピクリと動かし――満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
「……ほほう。ワシを師匠と呼ぶか。気に入ったぞ。どれ、魔法を教えてやらんこともない」
「ありがとうございます師匠ぉぉぉ!」
歓喜のあまり鼻水まで垂らす一二三先輩。
老婆は、肩を貸すようにして彼を立たせた。
そのまま二人は、誰も知らない老婆の隠れ家へと向かうのだった。




