第62話 『川辺のバーベキュー』
カイン、店長、藤咲さん、一二三先輩――四人は異世界の川べりに到着していた。
店長は、相変わらず何を考えているのか分からない人物だが、今日に限って言えば「飲んで食べること」以外は頭に入っていないようだった。
一二三先輩はといえば、石を拾いながらブツブツと独り言を繰り返している。
「前世の記憶が戻らないから魔法が使えない……はず……いや、使えるはず……いや、使えない……」
元門番だったという割には魔法にこだわっているが、どう考えても大して得意ではなかったはずだ。記憶が戻ったところで火の玉ひとつ出せるかどうか怪しい。
そして我が身――カインこと我は、気が気でない。
何故なら、藤咲さんの前世の記憶が強く浮かび上がってしまわないか、心配で心配で……いや、正直に言えば怖くて仕方がないのだ。
これは貴族としてあるまじき姿。反省せねばならぬ。
当の藤咲さんはといえば、少々挙動不審だ。
「……むむむ。魔族の臭いがする」
などと呟いているが、魔王はとっくに倒されたはずである。せいぜい残党が野に潜んでいる程度。ましてやこんな田舎の農村に本格的な脅威が現れるはずもなかろう、と我は己に言い聞かせていた。
――そう考えていた矢先。
「みんな何やってるの! さっさと準備してバーベキューするよ!」
いつにもなく機敏な動きで店長が指示を飛ばしてきた。
「カイン君と藤咲さんは野菜切って! 一二三君は火起こし頑張って! 火を見てたら魔法使えるようになるかもしれないし!」
最後のは完全に適当である。だが一二三先輩は「なるほど!」と真顔で火打石を叩き始めている。
その店長はというと、指示を飛ばした直後には既に力尽きていた。
「仕事の後の一杯は最高だぁぁぁ!」
川風にジョッキを掲げ、豪快にビールを飲み始めている。
我は、藤咲さんが突然こちらに刃物を向けてこないか警戒しつつ、野菜を切る。
……が、なんだかんだで普段と違うことをしているのは妙に楽しい。
しばらくすると、農村の人々が数人やってきた。
「店長さーん」と気安く声をかけ、お土産に現地の肉やらキノコやらを抱えている。
店長は笑顔で歓迎し、そのまま農民たちと一緒に酒を酌み交わし始めた。
不思議なことに、酒を飲みながらでも彼らは手際よく準備を手伝ってくれるのだった。




