第60話 『藤咲さんへの疑問と、変なフラグ』
コンビニ内
「藤咲さんって、この前の赤飯祭りの時、SNSで呼びかけたから人が大変な事になったが……」
カインは唐揚げの補充をしながら、ふと思い出したように隣にいる一二三先輩に声をかけた。
「そんなに影響力があるのか?」
「えっ!?」一二三先輩は目を丸くした。
「今までカインはどう思ってたんだ? 本当に知らないのか?」
「どういう事だ?」カインは眉をひそめる。
「我だけがまるで知らないかのような言い草だが?」
一二三先輩は、ため息を混じらせた。
「藤咲さんは地元じゃなかなかの有名人なんだよ。それだけじゃなくて、この辺のイベントには欠かせない“地元のアイドル”的な存在なんだ。本当に知らなかったのか?」
「し、知らなかった……。確かに元聖女のオーラがあるから、老若男女問わずみんな有難がるかもしれんな……」
そんな話に割り込むように、店長が品出しカートを押しながら横切った。
「――断罪」
ボソッと一言だけ言い残し、そのままバックヤードへ消えていく。
「!!」
カインの体がビクリと震えた。
「だ、大丈夫か? 突然どうしたんだ?」
一二三先輩が心配そうに覗き込む。
「……大丈夫だ。問題ない」
カインは無理に笑みを作るが、手の震えは止まらない。
「まあ、赤飯祭りも終わったし、ようやく平和になったな〜」
空気を和ませるように、一二三先輩が伸びをする。
「もうすぐ夏休みも終わるが、海か川にでも行きたいもんだな〜」
その瞬間、再び店長が姿を現した。
「一二三君がそう言うなら、何か企画しちゃおっかな〜。任せといてくれ!」
「おい! 余計な事を言うな!」
カインが慌てて声を荒げる。
「あの店長が考える事なんぞ碌でもない事に決まっておろう! 毎度毎度、我はもう何回振り回されていることやら……!」
「カイン君は連れないな〜」
店長はニヤリと笑い、カインの肩をポンと叩く。
「大丈夫、大丈夫! 任せといて! カイン君も楽しめるような事を考えておくから!」
「…………」
カインは、疑いの眼差しをギラリと店長へ向けた。
異世界・老婆のアジト
その頃、別の世界。
うす暗い洞窟の奥で、老婆がしゃがれた笑い声を響かせていた。
「ふふ……農村ごときにこれ以上、遅れは取らんのじゃ」
老婆の皺だらけの手のひらに、小さな黒い蜘蛛が次々と這い上がる。
「アリグモたちよ……。お主らが増えた暁には、農民どもを恐怖のドン底に沈めてくれるわ」
蜘蛛たちは不気味な鳴き声を上げながら、闇の中に散っていった。




