第59話 『赤飯地獄と、アリグモの影』
カインは、額に滝のような汗を流していた。
昼をとうに過ぎてもなお、赤飯の蒸気がコンビニ裏に充満している。
「次の赤飯まだ?」「セイロ蒸し限定って聞いたんですけど!」
客たちは妙にテンション高く、SNS効果でどんどん列が伸びていく。
藤咲フィアナが得意げにスマホを掲げて「ほら! もう“映える赤飯”ってタグでトレンド入りしてる!」と笑顔を見せると、カインは眉をひそめた。
「下々の者は……なぜ赤飯ごときに群れるのだ……」
まるで戦場に立つ将軍のように呻くカイン。だが手元は止まらず、黙々と赤飯を詰め続ける。
その横で、一二三先輩が半ば呆れながらもフォローに回っていた。
「……っていうか店長、これ、1パック100円って値段おかしくないですか? ほぼ原価割れですよ」
案の定、レジ前に座る店長はにやりともせず、ぼそっと一言。
「何か、やっちゃいました?」
「やっちゃってますよッ!」
一二三先輩のツッコミが売り場全体に響いた。
それでも赤飯ラッシュは止まらず、夕方近くになってようやく材料切れ。
「……終わった……」と、カインがぐったり膝をついた時、店長は満足そうに両手を叩いた。
「いやー、なかなか良かったね! たまには違うフェアもいいもんだろ!」
「二度とやらないでください!」
カインと一二三先輩が同時に突っ込んだのは、もはや恒例行事だった。
――その頃、異世界の暗がり。
老婆はまたも一人、怪しい影の中で呟いていた。
「ヘビトンボ、バッタ、ネズミ……どれも不発。だが次は違うぞ……」
老婆の皺だらけの口元に、にやりと笑みが浮かぶ。
「アリグモ――見た目はアリ、だが正体は蜘蛛。奇襲にはもってこい……! 奴らの油断を、根こそぎ食い破ってやろうぞ!」
カインが赤飯地獄で疲労困憊している最中、
異世界ではじわじわと次なる“地獄”の準備が進んでいた。
――次に襲うのは、米ではなく……足元から迫る八本脚かもしれない。
アリグモは、意外とあちこちにいるので気になったら探して見て下さい。ヘビトンボは、綺麗な水の場所にいるみたいです。




