第56話 『青臭い2人』
コンビニのバックヤードに、ひなたが入ってきた。
「うっ……なんか、青臭いニオイがする……」
彼女は思わず鼻を摘みながらそう言った。
一二三先輩は、すぐさま姿勢を正し、芝居がかった口調で応える。
「ふっ……敵を倒したのは良いが、奴らめ。タダでは倒れなかったということか……」
そのキザな言い回しに、ひなたは「?」という顔を浮かべる。するとカインが、彼女の肩に軽く手を置いて、声を潜めた。
「……放っといてやれ。ゲームのやりすぎと、この暑さで頭がどうかしてるんだ」
ひなたは「そ、そうなんだ……」と納得したように頷いたが、その視線はまるで“ちょっと可哀想な人”を見る目つきだった。
「……さっきから聞こえてるからな。ゲームなんてしてない」
一二三先輩は小さく唸るように返すが、ひなたの表情は変わらない。
その空気を切るように、休憩室から店長がやってきた。
「やっぱり、ひなたさんにも臭う? あ〜やっぱりか〜。いやね、さっきまでこの二人に害虫退治とかゴミ掃除とかさせてたから、ちょっと臭うんだよね〜」
軽く笑いながら、あまりにも適当なことを言う店長に、カインの眉が跳ね上がった。
「我を愚弄するな!」
怒りの声が休憩室に響く。
「はいはい、分かったから。二人ともシャワー浴びよっか〜? ほら、こんな事もあろうかと着替えも用意してあるし」
店長はまるで子供をなだめるように言いながら、カインと一二三先輩をシャワー室へ連れていく。
このコンビニには、なぜかシャワー室まで完備されていた。しかもワンコインで外部の人間でも使える仕様。もはやコンビニとは思えない設備である。
廊下を歩きながら、カインはふと疑問をぶつけた。
「……なあ店長。もしコンビニの関係者が全員、転生者だとしたら……なぜひなた殿には異世界への扉の事を伝えないのだ?」
「う〜ん……」
店長はわざとらしく顎に手を当て、しばらく唸ったあとに、曖昧な笑みを浮かべた。
「……まあ、まだ時期が早いからかな?」
その適当な返事に、カインは肩を竦める。
「……まあいいか」
結局、深く考えるのをやめた。
――一方その頃、異世界。
ある暗い部屋で、謎の人物が頭を抱えていた。
「なぜじゃ……! ネズミ、ヘビトンボ、巨大バッタ……あれほど村に襲わせてきたというのに、どうしてこうも失敗続きなのじゃ!」
床に崩れ落ちるように座り込み、嘆きの声を漏らしていた。




