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第6話 『恋の悩み?』

 

 最近のフィアナは、奇妙な悩みを抱えていた。

 

「私、あのコンビニの店員さんを見ると……胸がドキドキするんです」

 

 昼休み、クラスメイトのひなたに相談すると、即答された。

 

「それ、恋だよ。おめでとう!」

 

「えっ……恋、ですか?」

 

「うんうん、好きな人を見ると心臓がバクバクして、呼吸が浅くなって、頭がぽーっとして、手が唐揚げ棒持ちたくなるでしょ?」

 

「えっ、それは……あの店が揚げたてでおいしすぎるからでは?」

 

「もうそれ完全に恋だね」

 

 ――こうして、フィアナは一つの結論にたどりついた。

 

 “私は、あのちょっと偉そうな店員さんに、恋している”。

 

 

 

 一方その頃、問題の店員カインは、バックヤードで顔を青くしていた。

 

「……マズい。完全に勘づかれている……」

 

 彼の手には、フィアナがじっと見つめていたペンダント。

 聖女から贈られた、前世の“罪の証”。

 

 あのときの目……間違いなく思い出しかけていた。

 このままでは、再び断罪されてしまうかもしれない。

 

「このままでは処される! 今度こそマジでギロチンコースだ……!」

 

 カインは決意した。

 「絶対に貴族っぽく見られないよう、民のフリを貫く!」

 

「よし、言葉遣いは“ッス”で統一だ。“民代表☆カインッス”で行くッス!」

 

「なにそのラップ調……怖いからやめて」

 

 ひなたの冷静なツッコミは、当然のものであった。

 

 

 

 そして夕方、ついにその時が来た。

 

 ――カランカラン。

 

 フィアナが入店した瞬間、唐揚げ棒のフライヤーが「じゅわっ」と高らかに鳴る。

 なぜかBGMも一瞬止まる演出付きである。

 

「い、いらっしゃいまッスッ! まごころの民、カインッス!」

 

「……えっ、あの……こんにちは?」

 

 第一印象:超不審者。

 しかしフィアナの胸は、やはりドクンドクンと高鳴っていた。

 彼の顔を見るたびに、なぜか――懐かしいような、苦しいような、不思議な気持ちになる。

 

「その、今日も唐揚げ棒……三本ください」

 

「ご注文、光栄の極みッス!」

 

「やっぱり変だこの人……」

 

 けれど、それでも心は騒がしかった。

 ――なぜか、涙が出そうになるのはなぜだろう?

 

 ふと、カウンターの下から、あのペンダントが見えてしまった。

 

「……それ、どこで……」

 

「ッ……これは……単なるアクセサリーッス! よくある唐揚げ棒型ペンダントッス!」

 

「どう見ても“十字と月の紋章”なんですけど!?」

 

 その時、フィアナの脳内で、過去の記憶がフラッシュバックし始めた。

 

 断罪の広間。貴族の館。冷たい声。そして――処刑台に立つ、カイン。

 

(この人……やっぱり……!)

 

 でも、断罪したはずのその人が、今は――唐揚げ棒を必死に揚げている。

 なんなら油跳ねにビビってる。

 

「……私、あなたを見ると、胸が苦しいんです」

「そ、それは油のせいッス! 揚げ物は揚げたてが危険ッス!」

「違うんです! もっとこう、心が、痛くて、切なくて……なのに会いたくなるような……!」

 

 ドクンドクン、と高鳴る鼓動。

 

 もう……これは恋なのか。

 それとも――罪悪感?

 

「……わかりません。でも、今のあなたは、悪い人には見えません」

 

「それだけは……本当ッス……!」

 

 そして、二人の距離がゆっくりと縮まり――

 

「っ……!」

 

 その瞬間。

 唐揚げ棒が爆ぜた。

 

 パーン!という乾いた音とともに、飛び跳ねた熱油がカインの額を直撃!

 

「熱ッッッ!!」

 

 ついでに串がフィアナの鼻先をかすめ、彼女は「ひゃっ!?」と情けない声を出して後ずさる。

 キス未遂。失敗。

 

 唐揚げ棒、恐るべし。

 

「なにこのタイミング!?」

 

「店長ッス! 唐揚げ棒が俺の恋を阻んだッス!」

 

 バックヤードからひょっこり出てきた店長が、にこりと笑う。

 

「うーん。きっと“恋愛は揚げ物より熱い”ってことだよ、カインくん」

「そんなダジャレで済ますなぁぁ!!」

 

 こうしてまたひとつ、再断罪の危機は――唐揚げ棒により阻止されたのだった。

 


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