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第54話 『緑の何か』

 「やぁ、やっと来たね」

 コンビニの裏から続くダンジョンを抜け、村外れの畑へと出ると、そこには緑色の液体にまみれた農家のオッサンらしき人物が立っていた。

 ――らしき、と表現するしかない。何故なら、その体中が粘ついた緑の汁に覆われており、原形を留めているのは農作業帽とタオルくらいだからだ。

 「……」

 カインと一二三先輩、二人は一瞬で固まった。

 「……帰る」

 カインは即座に踵を返し、ダンジョンの扉へと向かう。

 だがその襟首を、すかさず一二三先輩が掴んだ。

 「おい待て、逃げるな」

 「放せっ! 俺は貴族ぞ!? こんな緑の汁まみれのオッサンと関わってられるか!」

 ジタバタするカインを抑え込みながら、一二三先輩はオッサンへと視線を向けた。

 「で、何があったんです?」

 オッサンは深いため息をつきながら、肩に引っかかっていた緑の羽根を払い落とす。

 「突然だよ、突然! 村一面にバッタが押し寄せてきてな!」

 その言葉の直後――ブワァァァァ……と耳を劈く羽音が畑全体に響き渡った。

 見れば、畑の上空から地面まで、三十センチはある巨大バッタが群れを成して飛び回っている。

 そして倒された個体は、例外なくドクドクと緑色の液体を吐き散らす。

 「うっわ……」

 一二三先輩は顔をしかめ、カインは絶句する。

 「幸い収穫は終わってたんだがな……。このままじゃ次の種も植えられん」

 オッサンは悔しそうに拳を握り締めた。

 その横で、落ちていた段ボール箱がガタリと揺れる。

 中から飛び出したのは――どう見ても農薬散布機。タンクには薬剤が満タンに入っている。

 「……殺虫剤っぽいな」

 一二三先輩が呟くと、オッサンはニッと笑って言った。

 「ホレ、さっさとやっちまおうや! 今は猫の手でも借りたい状態じゃ!」

 カインはげんなりとした顔で天を仰ぐ。

 「また野良仕事か……。何故、貴族である我が、このような……」

 その愚痴をよそに、村人たちが次々と集まってきた。老いも若きも棒や鍬を手に、バッタに立ち向かう。

 その必死さは、「逃げ場などない」と無言で告げていた。


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