第53話 『店長の怪しい笑顔』
次の出勤日。
本来ならカインはコンビニでバイトをしているはずだった。
だが現実は――バックヤードの作業台にずらりと並んだボウルや蒸籠、そして大量のヨモギ。
カイン、一二三先輩、そしてヒナタさんが、せっせと草団子を丸めていた。
前回の説明で、なぜこんな作業をしているのか大体は理解している。
……が、全国のどこを探しても、これほどの量の草団子を作っているコンビニはないだろう。
しかも今日は、開店前から既に台の上は団子だらけだ。
「……なぜ我が、このような庶民の台所仕事を……」
カインは延々とグチグチと文句を垂れる。
一二三先輩は逆にやる気満々で、丸めながら小声で呟いていた。
「これで……きっと……魔法が……」
その呟きを、ヒナタさんはしっかり聞き取っていたらしい。
こっそりとカインの横に近寄り、小声で尋ねる。
「ねえカインさん、一二三先輩が“魔法がどうこう”って言ってたけど、何かあったんですか?」
カインは小声で返す。
「……暑さとゲームのやりすぎで、少々頭が残念な状態なのだ」
――はずだった。
しかしその声は、一二三先輩の耳にもしっかり届いていたらしい。
「おいカイン! “残念”とは何だ! 私はゲームなんてやってない!」
顔を真っ赤にして抗議する先輩を、カインは涼しい顔で無視する。
そんな中、休憩室のドアが開き、一人の店員が顔を出した。
「ご苦労、ご苦労! 頑張ってるねぇ」
笑顔で親指を立てる。
「レジとかはオバチャンたちがやってくれてるから、もう少ししたら交代でそっちもお願いね」
団子を丸め続ける三人を置いて、店員は去っていった。
っと思ったら直ぐに、店長が現れる。
「カイン、一二三くん」
呼ばれた二人は同時に顔を上げた。
「ちょっと、いつもの用事があるから。ヒナタさんは……一人で作らせるのも悪いし、店内手伝ってきて」
「はーい!」
元気よく返事をして、ヒナタさんは団子を置き、店内へと走っていった。
残された二人に、店長は急に深刻な顔を見せた。
「……また、異世界で大変なことが起きてるんだ」
カインは、前回までの流れを思い出し、半眼になる。
「今まで色々と騙されてきたからな。どうせ大したことはない。今回は騙されないぞ」
「おお、それは頼もしい!」
店長は満面の笑み。
その笑顔を見た一二三先輩は、眉をひそめて小声で言う。
「カイン、余計なことを言うな! あれは企んでる顔だ……また何か仕掛けてくるぞ」
店長はおもむろに、ヒゲメガネをカインに手渡した。
そしてミカン箱の倍ほどある段ボール箱を二人に押し付ける。
「じゃ、現地の人の指示に従ってね〜」
そのまま、異世界への扉の前まで二人を押していき――
「いってらっしゃーい!」と笑顔で手を振る店長。
カインはため息をつき、一二三先輩は「やっぱり怪しい!」と叫びながら、扉の向こうに消えていった。




