第51話 『諦め』
店長が休憩室のドアを押し開け、相変わらずの気の抜けた笑顔で戻ってきた。
「さてさて、今回はヨモギを取ってきてもらうよ。あ、藤咲さんはちょっと様子見てからでお願い。従業員でもないのにゴメンね、こんな事に巻き込んじゃって」
藤咲さんは、少し戸惑いながらも微笑む。
「……いえ、大丈夫です」
だがカインが一歩前に出て、胸を張った。
「バイトに野良仕事をさせるとは、店長殿、労働貴族の風上にも置けぬ行いであるぞ」
店長はひそひそ声で、カインの耳元にささやく。
「でもカイン君、悪役貴族でしょ? これくらいいいでしょ?」
カインの眉がぴくりと動く。
「その言い草は卑怯ではないか! 一二三先輩、そなたも何か申せ!」
一二三先輩は眼鏡をクイッと直し、真剣な顔で店長を見る。
「今回こそは……魔法、使えるようになりますよね?」
「そうじゃない!」カインが即座に突っ込むが、店長は詐欺師めいた笑みを浮かべる。
「魔力で満たされた世界で経験を積めば、もしかしたら使えるようになるかもしれないよ?」
その一言で、一二三先輩はやる気満々の表情に変わる。
一方カインは深いため息を吐き、肩を落とした。
藤咲さんが遠慮がちに口を開く。
「……本当に私は残っていて大丈夫なんですか?」
店長は頷きながら説明する。
「藤咲さんは、あっちに行くと前世の記憶や気持ちに引っ張られて、うっかりカイン君を退治しちゃうかもしれないからね。いざという時までは待っててもらうよ」
藤咲さんは顔を赤らめ、視線を逸らした。
カインは観念したようにヒゲメガネを取り出し、装着。
「……もうどうにでもなれ」
そう呟くと、一二三先輩と共に異世界への扉をくぐっていった。




