第48話 『店長の告白』
コンビニの休憩室に、ふらりと現れたのは、やっぱりどこか頼りなさそうな雰囲気を纏った男――店長だった。手にはコンビニの紙コップコーヒーを持ち、相変わらず適当そうな笑みを浮かべている。
「おっ、みんな集まってるね~。タイミングばっちりじゃん」
その緩い口調に、場の空気が少しだけ緩んだが、一二三先輩は待っていたとばかりに立ち上がって詰め寄った。
「店長っ! ついに……ついに魔法の伝授タイムってヤツですよね!? やっぱ俺、才能あるんすか!? 魔法爆発したりします!?」
興奮気味な先輩を前にしても、店長はいつも通りのペースを崩さない。
「まあまあ、落ち着いて。魔法はね、ちょっと関係あるかもしれないけど……今日の話は“伝授”とかそういうのじゃないんだよ」
一二三先輩は「え?」と気の抜けた声を出して椅子に戻る。
店長は一口コーヒーを啜ると、視線を3人に向けて言った。
「今日話すのは……君たち3人が“扉の向こうの世界”からの転生者だってこと」
しんと静まり返る休憩室。まるで時間が止まったかのようだった。
「……っ!」
カインの顔色が変わる。そして店長に詰め寄った。
「お、おい店長っ、な、何故そんな事を彼女にまで言う必要があったのだ! 余が! いや、我が!! 気を遣って――」
「カインさん……」
藤咲フィアナが、ゆっくりとカインの方を見た。その表情は驚きと、少しの納得の入り混じったものだった。
「どうりで……あの世界の風景や、魔法が馴染んで感じた訳ですわ」
そして、柔らかく微笑みながら問いかける。
「でも、なぜカインさんは私が転生したことを知らないままにしておきたかったのですか?」
その声は、お嬢様らしい気品がありながらも、どこか鋭く、真正面からカインを突き刺してくる。
「そ、それは……だな……!」
カインは狼狽し、言葉が詰まる。
すると、店長が手を挙げて止めに入った。
「うん、それは俺から説明しようかな」
ぐいっと腰を伸ばして立ち上がると、店長は淡々と語り出す。
「実はね、カイン君……あっちの世界では“悪徳貴族”だったんだよ。そして藤咲さん、君はそのカインを“断罪”した張本人だった」
「えぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」という叫びが、まるで合唱のように室内に響く。
藤咲フィアナは顔を真っ赤にして両手で口を押さえる。
「し、信じられませんわ……でも、確かに“断罪”って言葉、時々頭に浮かんできて……」
恥ずかしさに耐えきれず、膝を抱えるように椅子に身を縮める。
その横で、眼鏡をクイッと押し上げながら、一二三先輩が妙に納得した様子で呟いた。
「なるほどね~。そりゃ藤咲さん、何度も“断罪”がどうとか言ってた訳だ……」
店長は頷きながらも、今度は一二三先輩の方を見た。
「で、一二三君の方だけど――特に秘密とかはないかな」
一二三先輩の顔が一瞬で曇った。
「え……いやいや、そんな訳……俺だけ何も無いとか……いや、あるでしょ? 前世で世界を救ったとか、闇の王子だったとか、さ……?」
「うーん、あっちの世界では門番やってたんじゃなかったっけ?」
「門番!?」
思わず立ち上がる一二三先輩。
店長は肩をすくめながらも、少しだけフォローを加える。
「でもね、門番の中には一部、魔法が使える人もいたらしいし……全くのゼロではないよ? うん、可能性は……無きにしも非ず!」
「……ゼロじゃないなら……うん、いい! まだ夢は終わってない!」
一二三先輩は復活の兆しを見せ、拳を握りしめる。
その間も藤咲さんはまだ赤面して恥ずかしそうにうつむいていた。
そんな中、店長は声のトーンを落として、真顔で言った。
「――さて、本題なんだけど」
少し場が静まり、3人の視線が店長に集中する。
カインは腕を組み、面倒くさそうに呟いた。
「どうせ、また大した話ではないのだろう……」
一二三先輩は「魔法が使える可能性がゼロじゃない!」ということで、まだ半分話が聞こえていない。
藤咲さんは、恥ずかしさが冷めきらず、顔を赤くしたままソワソワしている。
しかし――店長の顔は珍しく、どこか真剣だった。




