第5話 『恋の予感?違います』
最近、胸の鼓動が、やたらと早くなる。
きっかけは、近所のコンビニ――「まごころマート」。
そこに立っていた、どこか浮世離れした美形の青年。
言葉づかいは古風で、制服の着方は妙に丁寧。接客なのにどこか上から目線。
「“民”の方、こちら温めてよろしいでしょうか」
ふつうにレンジのことを聞かれただけなのに、心臓がドクンと跳ねた。
(この感じ……なんなの……?)
フィア――いや、現代名・藤咲フィアナは、そんな疑問を抱えながらも、毎日のようにコンビニに通っていた。
彼女自身、自覚はないが――前世では「聖女」として異世界にいた。
そして悪役貴族カインを“断罪”した張本人でもある。
今は高校二年生。優等生。ちょっと世間知らず。
けれど、最近の違和感は強すぎる。
◆
(あの人を見ると、なぜか懐かしくなる。だけど、怖いような、でも……安心するような)
思い切って、今日もまごころマートへ行ってみた。
夕方。陽が落ちるころ、店内はいつもの静けさに包まれている。
――いた。
彼はレジで、真剣な顔で唐揚げ棒を並べていた。
それを見て、また心臓がドクンと鳴った。
(どうして……? そんなに唐揚げ棒が好きなわけじゃないのに)
「いらっしゃいませ、ようこそ“まごころの館”へ」
「えっ!? 館?」
「……いえ、いらっしゃいませ。カイン、ただいま参上……」
「名前!?」
この人、やっぱり変だ。変すぎる。
でも、声を聞くたびに――心が、揺れる。
「……あの、すみません」
「はい、フィアナ様――おっと、“お客様”でしたな」
「今、“様”って言いましたよね!?」
「お気のせいでございましょう」
「今“お気のせい”って言いましたよね!?(昭和か!?)」
どんなに変な会話でも、彼と話していると落ち着く。
むしろ、心がふわふわしてくる。
だが、ふとした瞬間。
彼の手元から、何かが落ちた。
小さなペンダント――それは、前世でフィアナが贈った“聖女の紋章”だった。
「……それ、どこで……」
「っ!」
彼が慌てて隠す。だが、もう遅い。
その形。あの色。絶対に間違いない。
(私……この人と、前に会ったことがある……)
鼓動は、もう抑えられないくらい高鳴っていた。
(この気持ち、なんなの……?)
(“恋”なの? それとも――“罪”を思い出してる?)
「失礼、“記念品”でございます」
「……変な夢を見るようになったんです。あなたに似た人を、断罪してる夢……」
「っ……」
「でも……そのあと、泣きそうになるんです。私の方が。なんででしょう……」
彼女はそう言い残し、ふらりと店を出て行った。
カインは立ち尽くしたまま、唐揚げ棒を揚げ忘れていた。
そしてその夜――
「店長、やっぱりあの子、フィアナなんじゃ……」
「うーん、気づくかもね。記憶、けっこう強く残ってるっぽいし。てか君、唐揚げ焦げてるよ?」
「うわあああああ!! また夢で処刑されるやつだ!!」
カインの叫びは、夜のまごころマートに響き渡った。