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第5話 『恋の予感?違います』

 

 最近、胸の鼓動が、やたらと早くなる。

 きっかけは、近所のコンビニ――「まごころマート」。

 そこに立っていた、どこか浮世離れした美形の青年。

 言葉づかいは古風で、制服の着方は妙に丁寧。接客なのにどこか上から目線。

 

「“民”の方、こちら温めてよろしいでしょうか」

 

 ふつうにレンジのことを聞かれただけなのに、心臓がドクンと跳ねた。

 

(この感じ……なんなの……?)

 

 フィア――いや、現代名・藤咲ふじさきフィアナは、そんな疑問を抱えながらも、毎日のようにコンビニに通っていた。

 

 彼女自身、自覚はないが――前世では「聖女」として異世界にいた。

 そして悪役貴族カインを“断罪”した張本人でもある。

 

 今は高校二年生。優等生。ちょっと世間知らず。

 けれど、最近の違和感は強すぎる。

 

 

(あの人を見ると、なぜか懐かしくなる。だけど、怖いような、でも……安心するような)

 

 思い切って、今日もまごころマートへ行ってみた。

 夕方。陽が落ちるころ、店内はいつもの静けさに包まれている。

 

 ――いた。

 

 彼はレジで、真剣な顔で唐揚げ棒を並べていた。

 それを見て、また心臓がドクンと鳴った。

 

(どうして……? そんなに唐揚げ棒が好きなわけじゃないのに)

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ“まごころの館”へ」

「えっ!? 館?」

「……いえ、いらっしゃいませ。カイン、ただいま参上……」

「名前!?」

 

 この人、やっぱり変だ。変すぎる。

 でも、声を聞くたびに――心が、揺れる。

 

「……あの、すみません」

「はい、フィアナ様――おっと、“お客様”でしたな」

「今、“様”って言いましたよね!?」

「お気のせいでございましょう」

「今“お気のせい”って言いましたよね!?(昭和か!?)」

 

 どんなに変な会話でも、彼と話していると落ち着く。

 むしろ、心がふわふわしてくる。

 だが、ふとした瞬間。

 

 彼の手元から、何かが落ちた。

 小さなペンダント――それは、前世でフィアナが贈った“聖女の紋章”だった。

 

「……それ、どこで……」

「っ!」

 

 彼が慌てて隠す。だが、もう遅い。

 その形。あの色。絶対に間違いない。

 

(私……この人と、前に会ったことがある……)

 

 鼓動は、もう抑えられないくらい高鳴っていた。

 

(この気持ち、なんなの……?)

(“恋”なの? それとも――“罪”を思い出してる?)

 

「失礼、“記念品”でございます」

「……変な夢を見るようになったんです。あなたに似た人を、断罪してる夢……」

「っ……」

「でも……そのあと、泣きそうになるんです。私の方が。なんででしょう……」

 

 彼女はそう言い残し、ふらりと店を出て行った。

 カインは立ち尽くしたまま、唐揚げ棒を揚げ忘れていた。

 

 そしてその夜――

 

「店長、やっぱりあの子、フィアナなんじゃ……」

「うーん、気づくかもね。記憶、けっこう強く残ってるっぽいし。てか君、唐揚げ焦げてるよ?」

「うわあああああ!! また夢で処刑されるやつだ!!」

 

 カインの叫びは、夜のまごころマートに響き渡った。

 


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