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第46話 『思い出す者達』

 コンビニの休憩室――そこは、ほんの少しだけ、異世界の空気が残っていた。

 一二三三二一ひふみ みつかずは、カップ麺を片手に、ぼんやりとした目で窓の外を見つめていた。

 あの農村の風景。

 乾いた風、遠くに見えた山並み、そして畑を踏み荒らしていた巨大な虫型モンスター、ヘビトンボ。

 ――見たこともないはずなのに、どこか懐かしい。

「……なんでだろうな」

 唐揚げ串を空に向かって投げたのが最初で最後の戦いらしい戦いだった。あとはほぼ、逃げて、逃げて、逃げ通した。

 だが、それすらも嫌な記憶じゃなかった。何かこう――昔も同じように、あの虫から逃げたことがあるような気がする。

「はは、俺、前世で虫と戦ってたのか……?」

 思わず口に出してから、頬が少しだけ赤くなった。

 傍から見れば、ちょっと痛い厨二病のようだが、本人はいたって真面目だった。

 そのとき、不意に思い出した。休憩中に食べた、あの“ヘビトンボの素揚げ”。

 食べた直後は気づかなかったが――

「……あれ、なんか……食べたことある味だったな」

 そういえば、店長が「エビっぽい」とか言ってたっけ。

 エビなら普通に食べたことあるし。まぁ、それなら納得だな。

 味の疑問はすぐに片付けられた。

「しかし……魔法って、使えるんじゃねぇの?」

 口に出した瞬間、スイッチが入った。

 右手を掲げ、左手で印を結ぶ。

「《我が内なる魂よ、今ここに形を成せ……!》」

 とりあえず、適当に考えた呪文を唱える。何も起きない。

「ちっ、ダメか……」

 だが彼の脳内では――**“眠れる記憶が目覚める予兆”**として刻まれていた。

「ま、明日だな。店長、なんか話があるとか言ってたし……」

 そう呟いて、彼はベッドに沈み込んだ。


 その頃――

 藤咲フィアナもまた、布団の中で目を開けていた。

「……あの扉の向こうの世界……何だったのかしら?」

 ぼんやりとした記憶。夢のように曖昧な景色。けれど、ひとつだけ確かなことがある。

 ――あの世界に行くと、カイン様が……“憎い存在”のように感じられた。

 好きなはずなのに。

「でも、あのとき……私、魔法を使っていたような気が……」

 そんなはずない、と頭を振る。が、ふと部屋の照明を見上げて思う。

 「もしかして、魔法で部屋を明るくできたり……?」

 気の迷いだった。けれど、なぜか自然に口から出た。

「……ライト」

 ふわり。

 空間に光の球が浮かんだ。

「え……えええええええっ!?」

 パニックになって手を振り回すと、光はパチンと音を立てて消えた。

「な、なに今の……!? 魔法!? 私が!?」

 心臓がバクバクと鳴る中で、今日コンビニで聞いた言葉を思い出す。

 「店長が、明日話があるって……」

「……部外者だけど、行けば……何かわかるかもしれませんわ」

 決意を胸に、フィアナは毛布を引き寄せると、そのまま眠りについた。


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