第45話 『実食』
コンビニの休憩室。夜勤組の面々がテーブルを囲んでいる。袋に入った謎肉の炙り料理がテーブルの中心に置かれている。
「さてと、出来たよ。謎肉の香草焼き。焦げ目もちょうどいい感じじゃない?」
店長がトレーを置くと、香ばしい匂いがふわりと立ちのぼる。
だが、その匂いに反応したのは――一二三先輩だけだった。
「これは……魔法に効く予感しかしない」
眼鏡の奥で、彼の目が妖しく輝く。
「おや、我は……食べなくてもよいので?」
カインが不思議そうに問いかけると、店長はあっさりと頷いた。
「うん。カイン君は食べなくても大丈夫」
「えっ!?」
カインは珍しく驚いた顔をした。
「というか、今回はどっちかっていうと一二三君のための料理だしね」
カインはその言葉に、ぐっと何かを堪えるような表情になった。
「む……。なるほど、なるほど。つまりこれは、貴様だけの特権と……。我には不要、と……。ふふ、なんとも高慢ではないか」
「いや誰もそんなこと言ってないんだが……」
一二三先輩が呆れたように返すと、カインはわざとらしくそっぽを向いた。
「我も! 我も食す! いざ、対抗意識燃ゆる!」
「いやいやいや、お前、絶対いま“我が我儘言ってるだけ”のやつじゃん!」
一二三先輩は皿を引き寄せながら目を細めた。
「断る。これは俺の、魔法のための食材だ」
「むむむ……! まるで我が我儘であるかのような言い草……!」
拗ねたように頬を膨らませるカインの姿に、藤咲フィアナはただぽかんと事の成り行きを眺めていた。
何も言わず、ただ空気の流れに身を任せているその姿は、もはやこの場に溶け込んでいるとも言える。
「いただきます」
一二三先輩は宣言すると、あっという間に肉を平らげてしまった。目の前の料理が、まるで幻だったかのように消えている。
「うん、満足」
皿を置きながら満ち足りたように笑う。
店長は、少し含みを持たせた笑みで言った。
「ヨシ! 食べたね」
「……え? なんすか今の言い方」
「いやいや、悪い意味じゃないって。ただ、これで魔法が使えるようになるんだよね? って思ったんでしょ?」
「はい、なりますよね!? これで! 俺、ついに魔法が――!」
店長とカインを見る。
カインはゆるく首をかしげた。
「我には解らん」
あっさりとした回答。
店長は肩をすくめて言った。
「明日になってみないと、わかんないかなー」
一二三先輩はため息をつきながらも、どこか満足げに椅子の背に体を預けた。
「……ま、これでダメでも、悔いはない」
「うん、それくらい美味しかったみたいで何よりだよ」
店長がにっこりと笑う。
「じゃ、また明日の仕事終わりに、みんなで話でもしよっか」
「えっ?」
ぽかんとしていたフィアナがようやく口を開く。
「私も……ですか?」
「できれば藤咲さんにも参加してほしいかなって思ってる」
店長の言葉に、フィアナはちらりとカインの方を見る。
「……まあ、カインさんがいるなら、私も参加します」
それは自然な言葉のようで、少しだけ嬉しそうだった。




