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第44話 『休憩室にて』

◇異世界・どこかの暗がりにて

 深い霧の立ちこめる廃墟の中、ひときわ大きなフードを被った人物が、ひとり、何かを睨みつけるように立っていた。地面には、燃え尽きたような虫の残骸が散らばっている。

「……またしても失敗か。忌々しい……忌々しいぞ……! ネズミに続き、虫まで通じぬとは!」

 その声は怒りに満ちていたが、冷静さを欠いてはいない。むしろ、次の手を打つべく計算しているような冷徹さがあった。

「このままでは“あの者”が……フン、だが、まだだ。次こそは――」

 ぼそりと呟くと、フードの人物は闇の中に溶けるように姿を消した。


◇コンビニ・休憩室

 休憩室には三人がいた。

 カインは、豪奢な姿勢で椅子に腰かけていた。明らかに一般庶民の休憩にはそぐわない態度で、優雅に紅茶を飲むような手つきで紙コップを持ち上げる。

「まったく……このような下賤の場で、命の危険を伴う害虫退治を強いられるとは、店長殿は我が身を何と心得ておられるのだ……」

 その言い回しと口調は、明らかに“元・貴族”のそれだ。

 一二三三二一ひふみ みつかず先輩は、その隣でカップラーメンを食べながらぼんやりと考え込んでいた。

「……でも、あの虫、すげえ魔力持ってたよな(想像)……つーか、これで俺にも魔法使えたりするんかな(願望)……」

 ひふみは、完全に“害虫”というより“素材”として捉えている。(厨二病)

 その向かいの席には、制服姿の少女――藤咲フィアナが座っていた。手には唐揚げ棒。だが、目はぼんやりと宙を泳ぎ、会話にはついていけていない。

「うーん……さっきから、なんの話をしてるのかしら……?」

 フィアナの表情は曇っており、過去の記憶と現在の出来事が噛み合っていない様子だった。

 その時、軽やかな足音と共に、店長がひょっこりと顔を出した。

「おう、みんな、ちょうど良かった! さっきの虫、ちょっと調理してみたんだけどさ、見た目はエビっぽいし、けっこういける味だと思うんだ。食ってみる?」

 手には、なぜか銀のトレイに載せられた、香ばしい匂いを漂わせる揚げ物らしき何か。

 カインは立ち上がった。驚きと憤怒が入り混じった顔で、指を突きつける。

「やはり……! 貴殿は我を、蛇頭飛虫じゃとうひちゅうの肉で買収しようというのか!? 断じて、我は食わぬ!! 貴族の舌に、あれを通すなど――万死に値する暴挙ッ!」

 「蛇頭飛虫」とは、さきほどコンビニ裏で退治されたヘビトンボ型の巨大モンスターのことだ。カインの中ではすでに正式名称化している。

 ひふみは、やや眉をひそめつつも食欲と興味を抑えきれないようで、店長にたずねた。

「……それ、食ったら、もしかして……魔法、使えるようになる?」

 店長はにやりと笑った。

「さぁね、どうだろう……でもまあ、あの虫、かなり魔力こもってたっぽいし。ヒントくらいにはなるかもね」

 藤咲フィアナは、唐揚げ棒を咥えたまま、ぽかんとした顔をしていた。

「え、何……? 虫の肉を……? わたし、エビフライ好きだけど、それは……エビなの……?」

 空気は奇妙なまま凍りついた。

 だがその静けさの中で、一つの確信だけがあった。

 このコンビニには、まだまだ“日常”とは呼べない何かが、確実に根を張り始めているのだ――。



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