第 39話 『こんな事だと思ったよ』
カインは、予想していた。
こんなことになるだろうと――。
一方、一二三先輩は、まったく予想していなかった。
まさか本当に、異世界なんかに来ることになるなんて。
二人はコンビニ裏に現れた扉をくぐり、たどり着いた先で出迎えたのは――
「おめーらか。店長さんが言ってた二人組は」
無骨な農家のオッサンだった。
言われるがまま、二人は農具小屋――どう見ても農具小屋にしか見えない建物――に案内され、収穫用の籠とハサミを渡された。
「朝どれ野菜は時間との勝負だ。ボサッとしてないでさっさと収穫するぞ!」
オッサンはそう言って、きゅうり、ナス、トマトの畑へと案内してくれた。異世界とは思えないほど平和で、どこか懐かしい農村の朝。
この異世界の扉は、ご都合主義なことに、開いた先の時間帯も毎回違うらしい。今回は、ちょうど早朝だった。
「ぐぬぬ……」
一二三先輩は悔しそうな声を漏らすが、すでに「従う」と言ってしまった以上、真面目に黙々と収穫を始めた。
――そして、1時間後。
「やっと終わった……」
と息をついたのも束の間、オッサンが振り返って言った。
「で、カインってのはどっちだ? 魔法が得意と聞いてる。氷、作ってくれ。こんな暑さじゃ野菜が傷んじまう」
その瞬間――
「えっ!? カイン君、魔法得意なの!? 見たい!見たい見たい見たい!!」
一二三先輩の目が、まばゆいばかりに輝き出した。
さっきまでの絶望の表情はどこへやら、まるで子どものような笑顔でカインに詰め寄る。
「は、はやく! 氷魔法!すごいやつ!」
カインは、単純だった。
その純粋な興奮に気をよくし、
「――愚民共よ。我が魔法を見て狂喜乱舞せよ! ハハハハハ!」
などと言いながら、馬車の荷台を凍らせ、底に氷を敷き詰めていった。
「すごっ……これ、すごいよカイン君!」
一二三先輩は、本当に目を輝かせている。
氷ができるたびに、「おぉ〜!」と歓声を上げては、荷台に頭を突っ込みそうな勢いで観察していた。
オッサンは、そんな様子に少し引きながらも、「お、おう……サンキューな」と礼を述べ、収穫した野菜の籠や箱を荷台に積み込んでいく。
その後も、詰め込み作業や後片付けなどを経て、作業は2時間足らずで終了。
カインは疲れきって、地面にへたり込み、
一二三先輩はその横で、「ねぇ、今度は火の魔法とかないの!? 水でもいいよ!なんでもいいから、もっと見せて見せて!」と大はしゃぎ。
最後に、オッサンが籠いっぱいの野菜を二人に手渡した。
「ほい、ご苦労さん。これ、報酬な。市場に出せないのも混じってっけど、味は保証するぞ」
異世界最初のミッションは――
まさかの農業体験だった。




