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第38話 『農民のヒゲメガネ』

その日は、珍しく客足もまばらだった。

 レジ前では、一二三先輩が目を輝かせながらカインを質問攻めにしていた。

「魔法ってやっぱり詠唱があるの?それともイメージ重視? あ、マナの流れとかって自覚できるものなの?」

「……お前、朝からテンション高すぎるぞ。ていうか、なんでそんなに目がキラキラしてるんだ……」

 カインはうんざりした様子でぼやくが、まったく動じない一二三先輩。彼のオタク魂が火を噴いていた。

 そんな2人を遠巻きに見ていた店長は、ふむ、と小さく頷いたあとレジ裏から顔を出し、ふらりとやってきた。

「ねえねえ、一二三くん? 色々知っちゃったし、もう一回――行ってみる?」

 一二三先輩の動きが止まる。

「……行くって?」

「異世界。ダンジョンとかモンスターとか、あっちの世界だよ。仕事中だけど、ト・ク・ベ・ツ・に、ね。もちろん特別だから、ちゃんとボクの指示には従ってもらわないといけないけど……行ってみる?」

 まるで遊園地の招待状でも渡されたかのように、一二三先輩の目がさらに輝く。

「もちろん! 是非とも行かせてください!」

 まったく疑う素振りもなく、二つ返事で了承していた。

 カインは、というと――

(……あ〜あ、碌でもない企みしてるよ、絶対……)

 と、内心で頭を抱えていた。

 店長は、ポンと手を叩くと後ろの倉庫から布袋を2つ持ってくる。

「じゃあ、これ着て。衣装ね。カインはヒゲメガネ、忘れないでね〜」

「またか……」

 疲れた顔を浮かべながら、それでも着替えるカイン。

 一方の一二三先輩はノリノリだった。どう見ても農民な服を着て、腰に縄を巻きながら「うお、めっちゃ作り込まれてる!」と大はしゃぎしていた。

「何故、高貴なる我が身が農民の格好など……屈辱的すぎるっ!」

 ヒゲメガネをつけ、布の帽子をかぶったカインはうなだれる。完全にコスプレ農民である。

「では、2人で行ってらっしゃい。現地の人には話を通してあるから、ちゃんと指示通りにね?」

 無邪気に送り出す店長。

 一二三先輩は「行きましょう! 農民としての使命を果たすのです!」と意気込み、カインは「……今回は一体、何をやらされるんだ」と嘆きながら、再び扉の向こうへと歩を進めていくのだった。


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