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第37話 『一二三先輩は疑問をぶつける』

 次の出勤日。

 深夜帯の静けさの中、レジ周辺で一二三先輩とカインは顔を合わせていた。

「なぁ……カインさんよ」

 一二三先輩が静かに口を開いた。

「前回のアレ……扉の件、ちょっと説明してもらえません?」

 カインは一瞬、気まずそうに目を泳がせたが、すぐに腕を組んでふんぞり返った。

「わ、私も被害者であるぞ! あのクソ店長め、またしても丸投げしおって……!」

 口では怒っている風だが、その表情にはどこか事情を知っていそうな色が見える。

 一二三先輩は、そんなカインをじっと見つめた後――

「いやぁ、さすがですわ〜カインさん。やっぱ頼りになりますよ、異世界とか魔法とか詳しそうだし」

 と、露骨におだててみせた。

 案の定、カインは数秒と経たずに口元を緩め、鼻を高くして語り始めた。

「ふふん……何でも聞いたまえ、無垢なる民の疑問に、高貴なる貴族の我が答えてやろうではないか!」

(……チョロいな)

 一二三先輩は内心でそう呟きつつ、本題を切り出す。

「じゃあ、改めて聞くけど……あの扉って、どこに通じてるの?」

「決まっておろう。異世界だ」

 カインは指を空に突き立てた。

「ただし、あの扉が開くタイミングは店長しか知らぬ。開けようと思って開けられるものではない」

「異世界って……マジで魔法とかある、あの異世界?」

「当然だ。第一、あの扉自体が魔法の産物のようなもの。つまり――」

 カインは軽く指を鳴らし、右手を広げた。

「――こういう事もできる」

 次の瞬間、カインの手がふわりと光を放った。柔らかく輝く白光が、レジの蛍光灯よりも神秘的に揺らめく。

「……え、えぇぇぇっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ、今の何!? 魔法!? カインさん魔法使えるの!?」

 一二三先輩は完全に目が点。

 そのまま「自分も使えるのか」「どうやれば」「手から火も出せるのか」などと質問の嵐を浴びせる。

 カインはその勢いに押され気味になりつつも、急に我に返ったように咳払いを一つ。

「げほっ……っという冗談はこの辺にしておこう、うむ。ほら、仕事、仕事だぞ。うむ!」

 取り繕うようにカウンターの方へ戻ろうとしたその時――

「……あー、何の話〜?」

 いつの間にか店長が背後に立っていた。

「店長!」

 一二三先輩はすかさず声をかけ、目を光らせる。

「あの扉のこと、はっきり聞きたいんですけど!」

 店長は一瞬ピタリと止まり、カインを横目でにらんだ。

「……カイン、何か言ったの?」

 カインは目を逸らしながら、「ち、ちょっとだけ」と小声で言い訳を挟む。

 店長は眉をしかめた後、ふっと笑った。

「まぁまぁ、取りあえずお喋りはこのくらいにして、仕事仕事〜。話は仕事終わってからにしよっか」

 ――そして、深夜シフトが終わった頃。

 タイムカードを押した一二三先輩は、再び店長のもとに歩み寄った。

「店長、今なら話せますよね? あの扉、やっぱり何かあるんですよね?」

 店長は、どこか諦めたようにため息をついた。

「……いつかこうなる気がしてたんだよね〜。まぁ、運命ってやつ? フフッ」

 しかし、その“運命”の引き金が、魚の皮を食べるか否かという、誰も予想し得なかった些細な口論だったという事実を、店長は最後まで語らなかった。


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