第36話 『あの港はいったい?』
しばらくすると──。
「断罪……断罪……断罪……」
呪詛のような声が、漁村の浜辺に響き渡る。
「ひぃぃぃぃぃッ!!」
カインが魚を焼いていた手を放り投げ、火も消さずに悲鳴を上げながら元来た扉へと猛ダッシュした。
その背後を、藤咲フィアナが無言で、しかし鬼神のような形相で追いかけていく。
怒りを静かに湛えた彼女の顔は、普段のどこか抜けた優雅さなど影も形もなかった。
「ふぅ、満足満足」と言いながら、店長は缶ビールの空を下げつつ、一二三先輩の肩を軽く叩いた。
「ね? 皮、美味しかったでしょ?」
「それどころじゃないんですよぉぉぉぉ……!」
一二三は頭を抱えながら、店長の後を追い扉に戻っていくしかなかった。
──しかし戻った先、そこは地獄だった。
休憩室の冷たい床に、正座していたのはカインと店長だった。
カインはヒゲメガネをかけたまま、うなだれて震えている。
店長は、まだ酒の匂いをまとったまま無言で天井を見つめていた。
その前に立つのは、腕組みしたパートのオバチャン三人衆。
どうやら全員の姿が突然消えてしまったことで、シフトが回らなくなり、帰るに帰れずここで待機していたらしい。
そこに帰ってきた一二三先輩も、有無を言わさず床に正座させられた。
「焼き魚の匂い……またしてましたよね?」
藤咲フィアナは、涼しい顔で自分の制服を整えながらそう呟く。
その後、しばらくは地獄の説教タイムが続いた。
店長もカインも、一言の反論もせずうなだれるばかり。
ようやく説教が終わった後、一二三先輩は意を決して店長に尋ねた。
「で、結局あれは何だったんですか? 漁村は? 扉は? 魚の皮の論争は……」
しかし店長はにこやかに言うだけだった。
「一二三くん、タイムカード押したでしょ? じゃ、お疲れ様〜。帰った帰った〜!」
「納得できるかああああああああッ!!」
叫びながらも、一二三先輩は更に深く混乱していった。




