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第36話 『魚の皮なんてどうでもいい』

 一二三先輩は、ヒゲメガネをかけたカインの両肩をガッシリと掴み、目を見開いて揺さぶった。

「なんでそんな自然な流れで魚なんか焼いてるんだよ!? ていうか漁村の人たちとも顔見知りみたいな空気出してるし! 教えてくれ、俺の頭がおかしいのか!?」

 カインは肩を揺らされながらも、どこか落ち着いた――というか、開き直ったような顔で悪役貴族じみた口調を返す。

「落ち着け……下民。腹が減っているときに混乱しても無意味だ。もう少しで魚が焼ける。空腹を満たせば、多少は気分も落ち着こう……」

「いやいやいやいや! そういう話じゃなくてだな!」

 カインは一二三の悲鳴を無視して、炭火の前でうちわを扇ぎながら、低くうなった。

「しかし、何で我が直々に愚民どもの食事の用意を……。焼くのはいいとして、皮を食うか否かでこんなにもめるとは……なんと無益な争い……」

 まるで一人芝居のようにグチグチ言いながら、カインは魚をひっくり返す。

 そのとき――。

「よいしょ、っと」

 コンビニ袋に詰められた大量の酒類を両手にぶら下げ、店長がフラリと戻ってきた。後ろには漁村の住民たちが数人ついてきている。焼けた肌に麦わら帽子、手にはビールのカップ。

「おい、また妙な格好したヤツ連れてきたぞ」「しかもあれ酔ってないか? もうフラついてるし」「やっぱり街の人間は変だな」

 住民たちのざわめきに混じって、店長は袋をドサリと地面に置き、楽しげに言った。

「さてさて、そろそろ魚が焼ける頃かな~? 一二三くん、これでいよいよ魚の皮を食べるか食べないかの決着がつくわけだ!」

「そんなこと、どうでもいいですってばああああああああっ!!」

 一二三先輩は髪をぐしゃぐしゃにかきむしりながら叫ぶ。

「ていうか、マジでどうなってるんですか!? ここどこですか!? なんで漁村!? 店長、説明してください! 本当にお願いだからああああ!!」

 店長はふふふと笑いながら、酒をプシュと開けて一口。

「うーん、魚の皮ってこんなに旨かったっけ?」

「話聞けよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」

 一二三先輩はもはや頭を抱えて膝をつくしかなかった。

 一方、カインはその横で「我が焼いた魚……皮などどうでもよい、だがこの香ばしさは……」などと小声で語り続けている。

 結局その夜、一二三先輩はまともに食事もできず、店長の皮トークとカインの悪役貴族トークにサンドされながら、意味不明な漁村の夜を過ごすこととなった。


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