第35話 『一二三先輩異世界へ』
異世界の、潮風が強く吹きつける古めかしい漁村。小屋の隙間から覗く木製の干物棚、燻された磯の香り。そこに、なぜかコンビニの制服姿のままの三人が立っていた。
カインは腕を組み、明後日の方向を見ながら鼻で笑う。
「下民どもの感性など、いちいち気にしていられるものか……皮を食おうが捨てようが、己の自由であろう。ましてや、我が手で魚を焼くなど――冗談にしても笑えぬわ」
そう、あくまで悪徳貴族気取りを貫いている。
そんなカインに向かって、店長が元気よく手を叩きながら言った。
「カイン君〜! この前焼き方教えたよね! ほらほら、さっそく実践しようよ〜! あの黄金色に輝くパリパリの皮をさ! 美味しく焼いてくれないと困るよ!」
カインは遠くを見つめながら、小さくため息をついた。
「ふん……この我が、料理などという下賤な行為に手を染めるなど……だが、命じられれば従うのが、かの悪役貴族たるカイン・アルマリウスの流儀……やれやれだな」
一方、一二三先輩は完全に混乱していた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? さっきまで俺たち、店内で魚の皮を食べるか食べないかの話してただけですよ!? なんで今、木の舟とか干物棚とかあるの!? てかなんで漁村!? しかも魚を焼く!? え、今って夢!? 店長!? どこ行ったんですか店長ォォォォ!!」
その叫びに、村のどこからか笑い声が響く。
「フフフ……」
振り返ると、すでに村の住人に溶け込んだかのような装いの店長が、桶に水を汲みながら笑っていた。
「いいかい、カイン君。一二三君。魚はね――皮まで焼いてこそ、真の味が引き立つんだよ」
三者三様の思いを胸に、日が傾く漁村に、謎の料理対決(?)の幕が上がろうとしていた。




