第34話 『再び漁村へ』
とある蒸し暑い夏の日。
バックヤードで、店長と一二三先輩が珍しく真剣な顔で言い争っていた。
「魚はな、皮までパリパリに焼いて食べるのが一番うまいんだよ! あの香ばしさがわからんのか、一二三君!」
「だから言ってるじゃないですか、店長。皮に鱗が残ってたら気持ち悪いんですよ。焼き加減とか関係ないですって。僕は絶対に皮は残します!」
二人の言い合いを、少し離れたところでカインが腕を組んで見下ろしていた。
「……愚民共が、くだらぬことで争いおって……。まさに下界の無益なる騒擾……我が耳を汚すに等しき哉」
すっかり悪役貴族風の話し方が板についてしまっている。
「よし! だったら実証してやろうじゃないか!」
店長が突然立ち上がり、謎のテンションで叫んだ。
「……なんですか、実証って」
一二三先輩が怪訝そうな顔をする。
「カイン君に、魚を焼いてもらう!」
唐突に指名され、カインがぎょっとする。
「な……なにゆえ、この我にそのような下賤な役割を――」
「いいから! カイン君が焼いた魚が美味かったら、皮まで食べるのが正解ってことで納得してもらおうじゃないか!」
やたらと勢いづいた店長は、すぐさま「今がチャンスだ!」とばかりにパートのおばちゃんたちが来るのを確認すると、満面の笑みを浮かべて言った。
「よし、行くぞ! あっちで魚を焼くんだ!」
「え? あっちって、どこですか? 店内で魚なんて焼いたら、匂いとか油煙とか……」
「大丈夫! バックヤードに来ればわかるから!」
そう言うと店長は、一二三先輩をむんずと掴み、あらかじめこっそり開いていた異世界への扉へと押し込んだ。
「ちょっ、ちょ、ちょっと待って――!?」
そしてお次はカイン。
「貴様……まさか、我を――」
「ヒゲメガネ装備完了!」
店長はカインにヒゲメガネを無理やり装着させ、そのまま背中を押して扉の中へと送り出す。
異世界の夏、再び。
焼き魚は、果たして「皮ごと派」が勝つのか「皮残し派」が勝つのか……?
舞台は異世界の漁村へと移るのだった――。




