第33話 『カイン悪役貴族に戻る』
翌日。
カインの様子が、少しおかしかった。
「いらっしゃいませ、我が主よ。本日もようこそ、コンビニ・オブ・ミラクルへ……!」
笑顔でフランクフルトを差し出しながら、どこか貴族然とした口ぶり。
──というか、完全に悪役貴族の喋り方だった。
ひなたさんがこっそり話しかける。
「ねぇ、カイン君。最近、喋り方がちょっと変じゃない?」
「ふむ……変ではござらぬ、これは格式というものだ。我が高貴なる血が騒ぐのだよ、ひなた嬢」
「……うわ、本格的にこじらせてる」
周囲のパートのオバチャンたちも、心配そうに彼を見ている。
実はここ数日、カインは真夏の炎天下、連日フランクフルトを焼き続けていた。
どうやら、それが原因で何か大事な何かが壊れてしまったらしい。
一二三先輩は困り果て、店長に相談する。
「店長……あいつ、マジでヤバいっすよ。なんか、ロールプレイっていうか、完全に“入って”ますよ」
すると店長は、謎の微笑みを浮かべた。
「フフフ……心配ご無用。すでに手は打ってあるのだよ」
「また悪役貴族みたいな口調だし……っていうか、手を打ったって?」
まさかと思った瞬間、コンビニのドアが開く。
「こんにちは~」
現れたのは藤咲フィアナだった。制服姿に、小さな買い物カゴを提げている。
どうやら、ひなたさん経由で呼ばれていたらしい。
「えっ、藤咲さん……なんで?」
「うふふ。店長さんから、“ちょっとカイン君に注意して”って頼まれたんです。私、演劇部ですし、なんかそういうの慣れてるかなって」
そしてカインの前に立ち、真顔で尋ねる。
「カイン君って……もしかして、悪役貴族なんですか?」
「ひぃぃぃぃぃっ! 申し訳ありませぬうううぅ!」
カインが土下座する勢いで床にひれ伏す。
その瞬間から、彼の喋り方はピタリと普通に戻った。
「……な、なんだ今の?」
ひなたさんが呟く横で、一二三先輩が納得したように頷く。
「藤咲さん、最強かもしれない……」
店長は、ニヤニヤと意味ありげに笑っていた。




