第32話 『店長に問いただす』
藤咲さんには、「ちょっと演劇部の練習だったんです」と適当に誤魔化して帰ってもらった。彼女は最後まで首をかしげていたが、「また来ますね」と笑顔で去っていったのは不幸中の幸いだった。
ようやく店長と二人きりになったので、バックヤードへと向かう。そして、満を持して問いただす。
「店長。今日こそは、あの扉のことを教えてもらいますよ! 魚を焼くために異世界に行くなんて、どう考えてもおかしいですから!」
ちょっと強めに、けれど丁寧に。感情を抑えつつ問いかけると、店長は目を泳がせながら、苦笑を浮かべた。
「いやぁ……でもほら、魚、美味しかったでしょ? あの味をね、教えてあげたかったんだよ」
「店長!」
語気を強めてもう一度叫ぶ。すると、店長は観念したように深いため息をつき、パイプ椅子に座り込んで語り始めた。
「あの扉はね……困っている人とか、私たちの力が必要な人がいると、光るんだよ」
「……意味がわかりません」
「まあ、カイン君はあまり深く考えたことないけど、たぶんそういう仕組みなんだよ。向こうの世界って、そういう……便利というか、物語的というか?」
言ってる自分でもよくわかっていないような口ぶりだった。こちらが返す言葉に困っていると、店長は急に開き直ったように続ける。
「そもそもカイン君は、ちょっと前まで悪徳貴族だったんだよ? だからさ、ちょっとくらい良いことしてもいいでしょ? ほら、罪滅ぼし的な?」
「……いやいやいや」
思わず呆れた声が漏れる。
すでに体力の限界だった。真夏の炎天下、夕方になっても気温は下がらず、異世界で魚を焼いたせいで体の芯から熱が抜けない。もう何も考えたくなかった。
「次こそは、納得のいく説明をお願いしますね」
一応、言うだけは言っておいた。期待は、していない。
店長は、休憩室の冷蔵庫から保冷剤を取り出して額に当てながら、悪びれもせずに笑う。
「魚、美味しかったでしょ?」
──もう本当に、意味がわからない。




