第28話 『頭の包帯は?』
夕方。長く、灼熱のような一日がようやく終わろうとしていた。
「よし……今日はこれで終わ――」
カインがエプロンを外そうとした、その時。
「……何を考えてるんだい、坊や?」
背筋が凍るような女口調。背後から店長がぬっと現れた。しかも、頭には包帯がぐるぐる巻きにされている。
「ちょ、店長……どうしたんですか、その頭?」
「ん〜まぁ、いろいろあったのさ。転んじゃってね、地獄の業火って怖いよねぇ〜」
明らかに何かを誤魔化しているその口調に、カインは思わず一歩引いた。
「ていうか俺、今日でバイト初日ですよ? そろそろ帰――」
「えぇ〜? そんなこと言っていいのかなぁ……あっ、“聖女様”だ♡」
「なッ……!」
藤咲フィアナの影が脳裏をよぎっただけで、カインの動きがピタリと止まる。
「う……うぅぅ……わかりましたよ……でも、他の人は?」
「もう帰ったよ? 今はね、パートのオバチャン達がフロアで頑張ってるんだから」
逃げ場はなかった。
《こうして、地獄の三日間の最終日が始まる――そう思ったが》
実は、意外と地獄は、なんとかなった。
暗くなり始めた頃、店内のホットプレートでフランクフルトを焼く作戦に切り替えられたのだ。普段なら店内調理も地獄の一端だったが、あの灼熱の外と比べると、店内はもはやオアシスに等しかった。
夜になると、唐揚げ串とは違って、フランクフルトの需要は減る。地獄のような列もなく、カインは内心ほっとしていた。
そんな平和な空気をぶち壊すように、閉店間際――店長が再び姿を現す。
頭には包帯。やはり様子がおかしい。
「……店長、マジでどうしたんですか、その頭?」
「ん〜? ま〜、それは置いといて。さ、行ってみようか?」
「ちょっ……地獄の三日間が終わったんですよ!? もう勘弁してください!」
「まぁまぁまぁ♡ ほら、ロッカーから持ってきたから」
そう言って差し出されたのは、勝手に開けたであろうロッカーから取り出した装備品。
・おなじみの衣装
・ヒゲメガネ
・呪われた竹刀
・そして――妙に禍々しい小袋
「……これ、いつもの竹串じゃないですよね?」
「気が付いちゃった? 実はね……」
店長は目を輝かせて語り出した。
「外にさ〜、フランクフルトの串をポイ捨てするやつらが大量にいたのよ。でね、それを踏んだら……あら不思議、なんか神聖なオーラに変わっちゃって! すごくない?」
どう見ても禍々しい瘴気が立ち上っているそれに、カインは心の中でツッコミながらも、空気を読んで「すごいっすね」とだけ返した。
(……もしかして、その頭の包帯って、串のせい?)
途中で気づいたが、あえて聞かないことにした。
「じゃ、行ってらっしゃい☆」
店長に背中を押され、カインは再び――異世界への扉をくぐる。
そしてその一部始終を、店外から見ていた一人の少女。
「なんか、あの店……やっぱり怪しいですね」
藤咲フィアナは小さく呟くと、後を追って――扉をくぐって行った。




