第3話 『いきなり断罪の危機』
――やばい。
やばいやばい。
よりによって、よりによってあのフィアナ様が転生してきてしまうなんて。
しかもこの“まごころマート”に通ってくるなんて!
「唐揚げ棒、三本ください」
彼女は今日もやってきた。
やや伏し目がちで、礼儀正しく、でも笑顔はほんのり柔らかくて――前世と全く同じ。
あの断罪会議で「あなたに悔い改めの心があるのなら、私は……」と優しく言っていた時と、まったく同じ笑顔!
(あの優しさの裏には、ギロチンの刃があった!)
そして問題なのは、彼女が最近こう言い始めているということだ。
「店員さん、なんだか懐かしい香りがしますね。貴族っぽいっていうか……侯爵……?」
言った! 今、絶対「侯爵」って言いかけた!
俺の魂が震えた! 唐揚げ棒が落ちかけた!
「いえ、私はごく一般的な民でして……日々唐揚げ棒を揚げし民でして……」
「ふふ、変わってますね」
やばい。これはやばい。
(このままいくと――)
▼《脳内妄想:断罪リターンズ!》▼
店内に光が差し、BGMが壮大なパイプオルガンに変わる。
「カイン・エスカルド! あなたをこの世界でも断罪します!」
「民の中で真面目に生きていただけなのにィィ!!」
「あなたの罪は――接客中の偉そうな言動と、唐揚げ棒の提供角度が悪かったこと!」
「そこまで!?!?」
▼《現実》▼
「……あの、大丈夫ですか? さっきから目が泳いでますけど……」
「だっ、だいじょぶでござるっ!」
取り乱しすぎて“侍口調”になってしまった。
ひなたに後で「キャラブレてるってば」とツッコまれた。
フィアナが帰ったあと、俺はバックヤードで店長に相談する。
「店長……人の記憶って、もし戻ったら、また断罪とかされる可能性って……ありますかね……」
「記憶が戻るかどうかは、本人の心の準備次第だねぇ。たとえば――」
店長はホットコーヒーを片手に、やけに深い目で言った。
「“君が昔と変わらない態度を取ってたら、記憶が蘇る可能性は高い”」
「そんなバカな!? じゃあ俺はこのまま、民に媚びへつらって、へこへこしてるのが正解!?」
「まあ、民を舐めてた過去があるなら、民を愛する姿勢は大事だねぇ~。あと掃除ね。トイレ掃除」
「くっ……“掃除こそ民の心に触れる道”……」
俺は、掃除用具入れに向かいながら誓った。
もう、貴族っぽくなんかしない。偉そうなこと言わない。
フィアナの前では常に笑顔、礼儀、謙虚。そして唐揚げ棒の角度は45度。完璧な接客!
断罪されてたまるか!