第26話 『炎天下の下で』
仮設テントの下――。
炎天下、ぐらぐらと揺れる空気の中、フランクフルトを転がすカイン。
横では、タオルを頭に巻いた店長が鼻歌を歌いながら焼き台に向かっていた。
「はは……フランク……フランク……今日も……30えん〜♪」
最初は機嫌が良かった店長。
だが、数分ごとに汗を拭いながら、徐々に様子が怪しくなってきた。
「……うふふ……アレだ……アレを売らなきゃ……売らなきゃ俺は、オーナーに……うへへ……」
トングを片手に、明後日の方向を見つめながら笑っている。
カインはそんな店長を横目に見ながら、黙々とフランクフルトを転がしていたが――
限界は近かった。
(……暑い……暑すぎる……)
熱で意識が薄れかけたその時だった。
カインの脳内に、なぜか聞き覚えのある「高慢な悪役貴族ボイス」がよみがえる。
「フン……この程度の熱で、我が身が焼き尽くされるとでも思ったか? 笑止!」
口が、勝手に喋っていた。
「見よ! この黄金色に焼けた肉の輝きを! この香ばしき芳香を!! 我が支配するは、炎と肉の領域!!」
「カ、カインくん!?」
ひなたが、冷たいドリンクを持って現れた瞬間、そのセリフに目を見開く。
しかしカインは、気づかない。
すでに、熱と疲労により人格がぶれ始めていた。
「庶民よ! この30円に込められし至高の美味を、しかと味わうがいい! ――ハッハッハァ!」
「……ちょっと何言ってるの?」
ひなたが心配そうに声をかける一方――
横では、店長がフランクフルトを見つめて突然泣き出した。
「……オーナー……俺、こんなに焼いてるのに……誰も買わないんですけど……」
ブツブツと呟きながら、トングを持った手が震えている。
「オーナー……唐揚げの幻が……笑ってる……そこに、そこにいる……ッ」
汗まみれの顔に、涙と謎の笑みを浮かべる店長。
その横で、悪役貴族になりきったカインがフランクフルトを掲げていた。
「……ふはは……我が手のうちにあるは、フランク・オブ・フランクス……すなわち、真なるセールの支配者……!」
炎天下のコンビニ駐車場。
そこには、静かに狂っていく男たちの姿があった。
――そしてその様子を、店内のガラス越しに一二三先輩が呆れた顔で見つめていた。
その隣では、なぜかまた藤咲さんが首を傾げていた。
「……あれ、カインさん……もしかしてまた……おかしく……?」
「いや、あれは多分“通常営業”だと思うよ……」
一二三先輩が冷静に呟いた。
地獄の夏は、始まったばかりだった。




