第25話 『外は地獄、中は地雷』
カインは休憩室を飛び出し、仮設テントの下――焼き場へ戻ってきた。
コンロの前では、一二三先輩が無言でフランクフルトを転がしていた。
巨大な業務用扇風機が回ってはいるが、炎天下の熱気は微塵も和らがない。
「す、すみません先輩……代わります!」
カインが慌てて声をかけると、一二三先輩がこちらを振り返る。
その顔に、暑さで消耗している様子はなかった。
代わりにあったのは――強烈な嫉妬と、冷たい怒気。
「……へえ、カインくんは店の中で膝枕で休憩するのが仕事なんだ?」
「な、なんで知ってるんですか!?」
「まあ……目撃情報ってやつ?」
一二三先輩は、トングをカインに押しつけるように手渡すと、睨むように言った。
「……そういうの、バイトリーダーにも報告すべきかなって思っただけ。じゃ、涼んでくるわ」
背中を向けて店内へ向かおうとするが――
「あ、ちょっと」
不意に別の足音が割って入った。
日陰の隅から現れたのは――店長だった。
腕まくりし、頭にタオルを巻いた店長は、焼き場の横にひょいと入り込む。
「なーんだ、ちょうど交代か。じゃ、俺も一本、焼こうかな」
「て、店長!? 戻らないんですか?」
「ははは、こんな楽しいことやってるのに戻るわけないだろ。青春してるなー、君たち」
そう言って、店長はやたら楽しそうにフランクフルトをトングでつまみ、じゅうじゅうと転がし始めた。
「……何が楽しいんですか……」
カインは思わず小声で呟く。
だが店長は聞こえていないふりをして、さらに笑顔を深くする。
「今年はなーんといっても、“あれ”があるからな。“唐揚げ串”の代わりに、“フランクフルト”。しかも一本30円! あー楽しい夏が始まったなぁ!」
意味深に笑う店長の姿に、カインはどこか寒気を覚える。
その一方、店の中では――
藤咲さんが、記憶を辿るような不安定な視線を浮かべて、ひなたの問いかけに小さく首を振っていた。
外は灼熱の地獄。
中には“地雷”が眠る危うい空間。
(どっちも地獄じゃないか……)
カインは、焦げそうなフランクフルトを無言で転がしながら、乾いた笑いを漏らした。




