第24話 『地獄のセールの合間に』
カインが目を覚ました時、最初に目に入ったのは――天井。
そして次に、頬に触れる柔らかい感触と、膝の上から感じる心地よい重力。
「……え?」
慌てて上体を起こすと、そこには、藤咲フィアナがいた。
カインの頭は、まさしく彼女の膝の上にあった。
「ふ、藤咲さん……!?」
「よかった、目が覚めたんだね」
藤咲は、どこか安心したように微笑む。
その顔が近すぎて、カインは赤面しつつ、少し距離を取った。
「えっと……俺、どうしたんですか? 何があったんですか……?」
「うん、さっきまで外で焼いてたでしょ? たぶん、暑さで限界が来たんじゃないかな。ふらふらってなって……そのまま無言でこっち来て、スポドリ飲んで……寝た」
「そ、そうなんですか……」
確かに体はだるく、記憶もぼんやりしている。
けれど、今は妙にスッキリしていた。
「で、でも、なんで藤咲さんがここに……? ここ、スタッフ用の休憩室ですよ?」
「え? ああ……たまたま近くにいたのよ」
そう言って視線を逸らしながら藤咲は答える。明らかにごまかしている様子だったが、追及しようとしたその瞬間――
カインの身体が、一瞬、淡く光を放った。
「……え?」
「……っ!」
藤咲が自分の手を見つめる。そして、そっと呟いた。
「……いけない。また、無意識に……」
その言葉に、カインは一瞬で察する。
今のは、回復魔法。つまり彼女は、あの“異世界”の力を、わずかに取り戻している。
(やばい……思い出させるわけには……)
「ま、まぁ! とにかく助かりました! すみません! お礼は、また今度! フランクフルト、焼き直さないと!」
早口で言い終えると、カインは勢いよく立ち上がり、扉を開けて駆け出していった。
残された藤咲は、ふと膝に手を置きながら呟く。
「……あの光……また、夢……じゃないのよね、やっぱり」
けれどその記憶は、次の瞬間には霧のように薄れていった。




