第21話 『登校中の2人』
朝の通学路。
夏の名残が漂う中、制服の袖がまだ暑さを含んでいる。
藤咲フィアナは、どこかぼんやりとした表情で歩いていた。
その横を並ぶひなたは、じっと彼女の横顔を見ながら、ぽつりと口を開いた。
「ねぇ、フィアナ。本当に大丈夫なの? 昨日のバイト先で倒れたって聞いて、正直ちょっとビビったんだけど」
「うん……大丈夫。気がついたら、休憩室の椅子で寝てて……カインくんが、助けてくれたみたい」
「ふーん……って、あれ? そもそもさ――」
ひなたは歩みを止め、やや真顔になる。
「客の立場である藤咲さんが、なんで裏口から勝手に入ったの? 普通に考えてダメでしょそれ」
「……それが、ちょっと自分でもよくわからないのよね」
フィアナは申し訳なさそうに笑うと、少し前を見つめた。
「裏手の壁のところで、なんか……扉みたいなものが見えた気がして。気づいたら、勝手に……っていうか、吸い寄せられるように扉に手をかけてて」
「え、マジで?」
「うん。でも、実際に何があったかはあんまり覚えてないの。扉に入った後、すぐ立ちくらみがして、そこから記憶がふわっとしてる感じ」
「……フィアナって、たまに天然入るけど、突き抜けるとそこまで行くんだ」
「そんな風に言わなくても……」
フィアナがぷくっと頬を膨らませる。
ひなたはふっと笑って、その表情を和らげた。
「でもまあ、倒れる前に誰かに助けられててよかったよ。ほんと、変な事件に巻き込まれたかと思った」
「うん、ありがと。カインくん……すごく焦ってたらしいし……たぶん迷惑かけたよね」
「まあ、本人もけっこう挙動不審だったし、そこはおあいこってことで!」
ふたりは再び歩き出す。
通学路は、いつものように平穏だった。
でも、フィアナの中には、どこか現実とは違う場所の気配が、まだ微かに残っていた――。




