閑話2 『一二三先輩の怨み』
――レジに立ちながら、コーヒー缶のバーコードをピッと通した瞬間だった。
(……そういえば、今日でこのバイト、丸4年)
客は無言。俺も無言。
レジに並んでいるのは缶コーヒーと、焼き鳥タレ味1本。
(……あれも……焼き鳥だったか。いや、唐揚げ串だったか……)
ふと、脳裏に焼きついた過去が蘇る。
――4年前。高校3年の夏休み。
大学進学は決まっていた。成績はまあまあ、恋人はいなかった。
(ならせめて、最新ゲーム機を買って夏を有意義にしよう)
そう思って始めたバイト探し。
偶然見つけたのが、このコンビニだった。
面接に行くと、店長がニコニコと、
「即採用で!制服あるから着てってね!」
即日採用。即戦力。そんなはずないのに、制服を渡された時からもう、おかしかった。
(おかしいって気づくべきだったんだよな……)
その日から、俺は――
「唐揚げ串担当になってもらえるかな! すぐコツつかめるよ!」
という店長の笑顔と共に、地獄の3日間に突入した。
――3日間、朝から深夜まで、休憩も食事もほぼなし。
唐揚げ串、唐揚げ串、唐揚げ串。
左手にトング。右手に竹串。
気づけば、夢の中でも唐揚げを刺していた。
夜間は一応、2~3時間だけ休憩室で仮眠を取っていた。
ただ、その仮眠中にも何か得体の知れない音が聞こえていた気がする。
(たぶん油がジューッと鳴ってた……無人の厨房で……)
しかも、捨てても捨てても、串のゴミ袋が減らない。
(無限唐揚げ串、ってあれ何のバグだよ……)
客が1本注文するたびに、10本くらい新しくできていた気がする。
深夜の店内には、誰も触っていないのに油が揚がる音がしていた。
ある夜、仮眠から目覚めてふと気づくと、バックヤードに入った店長が数時間戻ってこなかった。
(やべえ、死んだかと思った)
そう思った瞬間、何事もなかったかのように、店長が現れた。
服が少し焦げていた。髪が乱れていた。
そして――ほんのり血のような、鉄の匂いがした。
(いや……今思えば、あれ……絶対なにかしてたろ)
俺はあのとき、深くは詮索しないことに決めた。
バイト代はちゃんと出たから。あと、唐揚げ串はうまかったから。
でも。
(やっぱアレは異常だったよな……)
そう思っていると、最近入った後輩――カインが、数日前に言ってきたのを思い出す。
「一二三先輩って、フルネームだと“ひふみ みつかず”ですよね? 読みも字面もカッコいいし、数字にすると“123321”でシンメトリーなのもイイっすよね! 暗号みたいで強そう!」
(……暗号呼ばわりはともかく、褒めてはいるのか……?)
心の中で唐揚げ串を一本投げた。
できれば呪われたやつを。
「温めますか?」
無意識に客に問いかけていた。
「いや、大丈夫」
「ありがとうございます」
レジは静かに流れる。
(……でもな、今朝の“断罪”って声と、カインの叫びは……)
(さすがに放っておけるレベルじゃねぇよな……)
そのうち、俺も“何か”に巻き込まれるのか。
あるいは、もうとっくに巻き込まれてるのか――。
でも、クールを貫くのが俺。一二三 三二一、22歳、大学生。
(まあいい。今はまだ、知らないフリしとこう)
唐揚げ串の呪いに比べたら、多少の断罪くらい、どうということはない――たぶん。




