第20話 『新たな火種』
バシャン!
光の扉を抜け、カインがコンビニのバックヤードに転がり込んできた。
「はぁっ……はぁっ……助かった……!」
扉の向こうで響いていた「断罪!断罪!」の呟きが、トラウマに刻まれそうだった。
その直後――
「終わったなら、仕事仕事っと」
店長がいつの間にか後ろにいて、缶コーヒー片手に呟いたかと思うと、フラッとそのままどこかへ消えていった。
「おいコラ!せめて引き取れよ聖女様ァ!!」
叫ぶカイン。
そして。
「……だん……ざい……」
ふたたび光がゆらぎ、藤咲フィアナがふらふらと現れた。
「うわあああ! こっち来るなって! お前さっきから“断罪”しか言ってねぇんだよ!」
叫ぶカインの声を聞くか聞かずか、フィアナは一歩、また一歩と近づいて――そのまま意識を失って、カインの胸元に崩れ落ちた。
「……マジかよ……!」
仕方なく、ヒゲメガネのまま彼女を抱え、バックヤードの休憩室の椅子にそっと座らせる。
「えーっと……氷? 水? それとも除霊? 何したらいいんだよ……」
軽くパニック気味に頭を抱えるカイン。
気がつけば、空は白んで、店内の放送で「朝の割引タイムです」なんて流れている。
そんな中、バックヤードの扉がガラッと開いた。
「おはようございま――わっ!? 何してるのカインさん!?」
元気よく現れたのは、制服姿のひなた。
「昨日、教科書忘れちゃって……ってええええ!? 何この状況!!!」
ヒゲメガネ姿で妙に汗だくなカインと、意識を失った藤咲フィアナ。
ひなたは一瞬で「通報」の二文字を思い浮かべた。
「まさかっ! まさかカインさんがこんな……!」
「ち、ちがっ! オレがやったんじゃなくて! 向こうが勝手に倒れて!」
「ヒゲメガネつけて汗だくで女の子倒れてたらもうアウトなのよ!?」
バイト仲間への信頼がボロボロと崩れていく音がした。
そのタイミングで、フィアナがふっと目を覚ました。
「ん……ここは……どこ……ですの?」
「フィアナ!? 大丈夫!? 意識戻ったの!?」
ひなたが駆け寄り、心配そうに肩を支える。
「……ねずみ? 村……あれ、わたくし……何を……」
フィアナはぽかんとした顔で周囲を見渡す。
「断罪? いえ、そんなこと……してませんわよ? ええ、カインさんは……無実、ですわ。たぶん……?」
「……たぶんって何だよ!?」
思わずツッコミを入れるカインだったが、本人はいたって真剣な表情。
フィアナの記憶は、再び断絶しているらしく、異世界の出来事はぼんやりした夢のような扱いになっていた。
「……まあ、ひとまず元気そうで良かったよ……」
ひなたも、なんだかんだでホッと胸を撫でおろした。
しかし――
「やばっ! もう登校時間!」
「え、まじ? 制服のままで休憩室にいたら言い訳できないよ!」
二人は慌てて教科書とカバンをかき集め、カインに軽く会釈して走り去っていった。
休憩室に残されたカインは、ひとりでガックリ肩を落とす。
その直後、店長が何事もなかったかのように戻ってきた。
「お、終わった? じゃ、帰って帰って。もうシフト終わりでしょ?」
「いやいやいや! ちょっと待って!? さっきの何!? なんで扉勝手に開くの!? なんで藤咲さん来たの!? なんでオレ、命の危険と無実の罪でダブルピンチになってんの!?」
「……うん、仕事終わった人は帰った帰った」
「それ店長のセリフか!?」
こうして、今日もコンビニに平和(?)な朝が訪れた。




