第14話 『恐怖のプレゼント』
コンビニのバックヤード。
カインはカップ麺のフタを押さえながら、ぼんやり天井を見ていた。
そんな静かな時間を破って、ひなたが紙袋を手に登場する。
「はーい、お届け物でーす。お客様から差し入れ入りましたー」
「……客って誰だよ、今ここ裏なんだけど」
「フィアナ嬢でーす。“直接渡すなど羞恥の極み!”とのことで、私が代理人を承りました!」
「……あの子、どんどん潜入任務っぽくなってないか」
カインは紙袋を受け取った。
中には、茶色いボトルと、モスグリーン色のクッキー。
そして、極めて達筆なメモが添えられていた。
《“あなたの健康と、ご武運を心よりお祈りしております”》
「……うん、これ完全に戦に出る人向けだな」
「“これは恋の戦ですわ”って言ってたよ」
ひなたがニヤニヤと笑っている。だが――
その瞬間。
カインの手がぴたりと止まった。
(“ご武運を――”)
(……“悪徳貴族、カイン=アークレイ。汝の罪をここに裁く!”)
(……ッ!!)
記憶の奥底から、彼女の澄んだ声が響く。
高圧的で、正義感に満ちた断罪の声。
周囲の視線。ざわめき。責め立てるような視線。
「う、あ、あ……」
カインの指先が震え、ヒゲメガネがカタカタと音を立てる。
「ちょ、え、なに!? お湯の匂いで酔った!? 生ハーブがキツかった!?」
「ち、ちがう……オレ……オレは……断罪、されたんだよ……ッ……!」
棚にもたれかかり、膝が勝手にガクガクしてくる。
肩がわずかに痙攣している。完全に挙動不審である。
「……ひぃっ、こわい……(※俺が)」
一方その頃、店の外。
自販機の陰でこっそり見守る藤咲フィアナは、そっと胸に手を当てていた。
「うふふ……お渡しできましたわね……わたくし、また一歩……距離を縮めましたわ……!」
その顔は、嬉しさと恥ずかしさとで真っ赤に染まっていた。
「この気持ち、まさしく……こ、恋……ですわ……!」
心臓はドクンドクンと忙しなく鳴っている。
カインはまだ震えていた。ひなたはとりあえず水を渡す。
「はい! 水飲んで! 深呼吸して! いやなんかもう、すごいことになってるけど!」
カインは目を泳がせながら、うわごとのように呟いた。
「前世で断罪された相手から差し入れとか……このコンビニ、精神に悪い……」
「え? 何? なんか今すごい重要なことサラッと言った?」
「なんでもない。忘れて。俺も忘れるから」